明治00年創業 呉服と小物の店 特選呉服 結城屋

全日本きもの研究会 ゆうきくんの言いたい放題

Ⅶ-77 寿司屋と呉服屋(その5)

ゆうきくんの言いたい放題

 それでも庶民は寿司を食べたい。需要があれば当然供給を考えるのが商売である。そこで廉価に寿司を提供できるようになったのが回転寿司である。仕入れの合理化、人件費の削減、生産コストの削減など、ありとあらゆる合理化の末に現在の回転寿司がある。

 注文はタッチパネルで。数十人入る店でも、フロアの従業員は数人しかいない。会計も自動である。職人と顔を合わせる事はなく、握っている姿も見えない。あらゆるコスト削減と合理化で庶民は安価な寿司にありつけている。

 しかし、余りにも合理化が過ぎていると思われることもある。今はそう言った事は無いと思うが、以前、友人が家族と回転寿司に行ったところ、ワサビが寿司の側面についていたと言う。おそらく、流れ作業の中で、ワサビを付けたシャリが倒れて側面にネタを載せたのだろうと言う。作っている場面が目に浮かぶ。

 そう言えば、ハワイに行った時、父が寿司を食べたいと言うので寿司屋に入った。アジア系の人が経営している寿司屋だった。出てきた寿司は、真四角(角がきれいな直方体)のシャリにネタが載せてある。ただ載せてあるので容易にネタが離れてしまう。

「寿司とは何ぞや?」と思わずにはいられなかったが、「寿司とは、酢飯を直方体に握り、その上に生魚等のネタを載せて、好みによりワサビと醤油で食する物である。」と定義するならば、熟練の寿司職人が握る寿司も、回転寿司で供される寿司も、はてまたハワイで食べた寿司も同じ寿司の範疇に入るものである。

 同じ範疇に属する寿司であるが、熟練の寿司職人が握る寿司と回転寿司の価格の開きは大きく、価格だけを見れば同じ範疇に分類できるものかどうか疑問に思えて来る。

 それ故に、回転寿司の需要はぐんぐん伸び、従来の寿司屋さんは次々に暖簾を降ろしている、と言った事情もうなずける。しかし、熟練の寿司屋さんは依然として残っている。流行っている店は予約も採りにくいほどである。

 さて、寿司の話ばかりしてきたが、こういった寿司業界の事情と呉服業界の事情は似てはいないだろうか。

 昔からの呉服屋は少なくなっている。閉店する店もあるが、大幅に店舗を縮小する店、店は開いているけれども、在庫を売っているだけの店、呉服屋とは名乗っているけれども呉服は殆ど売っていない店なども含め、実質的に従来の呉服屋は激減している。

 そこには需要が減っている事情もあるが、呉服業界にも回転寿司のような潮流がある。

 呉服屋は染物や織物を売っている。染物に限って言えば、手描き友禅、型友禅、ローケツ染、更紗、絞り、江戸小紋など様々なアイテムの染物が扱われてきた。いずれも高度な職人技を要する伝統的な工芸品である。

 昔は人件費が安かったせいもあり、それ程高価なものではなかったかもしれない。しかし、大量生産の洋服と比べられて、「きものは高い」と言うイメージが定着してきた。それでも「きものを着たい」と言う気持ちは日本人の心には宿っている。「寿司を食べたい」と言う気持ちと一緒である。

                                            つづく

着物のことならなんでもお問い合わせください。

line

TEL.023-623-0466

営業時間/10:00~19:00 定休日/第2、第4木曜日

メールでのお問い合わせはこちら