明治00年創業 呉服と小物の店 特選呉服 結城屋

全日本きもの研究会 ゆうきくんの言いたい放題

Ⅶ-77 寿司屋と呉服屋(その6)

ゆうきくんの言いたい放題

 きものを何とかもっと安価にできないかと様々な技術が開発された。

 友禅染をする際、糸目を引く作業を機械で出来るようにと、「型糸目」と言う技術が開発された。一枚の総柄訪問着の糸目を引くのに熟練技術者が何日も掛かっていたのを機械で一気に引く事ができる。

 一つ一つ生地を絞るのには根気と時間が必要だが、機械で絞れる技術を開発する。更にもっと合理化しようと「空絞り」と言う技術を開発した。あらかじめ柄を染めた生地に後から絞りの凸凹を付ける技術である。空絞りで創られたものは、柄と絞りが正確にあっていないのでよく見ると本絞りではない事がすぐ分かるが、価格の差を考えれば十分なメリットがある。

 染で価格の低下に最も貢献したのは捺染である。捺染は言わばプリント。印刷技術で柄を染めて行く。生地に一つ一つ柄を描いて行く友禅染や職人が型を置いて染めて行く型友禅とは比較にならないほど安価にできる。

 更に、着物を安価に染める極めつけとも言える技術が「インクジェット」である。インクジェットと言う言葉は聞いたことがあると思う。ITの世界である。パソコンを導入し、画面に出た表示を印刷するのがインクジェットプリンターである。他にもレーザープリンターと言うのもあるが、生地を染めるのにはインクジェットプリンターが適しているのだろう。

 インクジェットプリンターは、黒を含む三原色プラスアルファのインクで何色でも染められる。染料や顔料を調合する事無く思った色に染める事ができる。このインクジェットを生地の染色に応用したのは革新的であった。安価にできるこの染色法はたちまち業界に浸透した。

 この技術は、特に振袖を染めるのに使われている。少々古い統計だが、令和元年12月から令和2年11月までの一年間、京都で染められた振袖は71,325枚。その内インクジェットは51,554枚である。全体の実に72.23%がインクジェットで染められている。

 因みに昔ながらの型染の振袖は18,951枚(26.56%)、手描きの振袖は819枚(1.14%)、ろうけつの振袖はたったの1枚である。

 インクジェットは複雑な色柄を簡単に染められるので振袖に多用されているのだろう。

 インクジェットは手描きや型染と比べると遥かに安価に染める事ができる。私の店で仕入れるとすると、インクジェットの振袖は型染のそれと比べて五分の一程度で仕入れる事ができる。実に革命的な技術である。

 そのような技術は、着物を安価に製造する為には画期的だった。それは寿司に例えれば、ほぼオートメーションの様に作られる回転寿司の寿司と同じである。

 職人の握る寿司も回転寿司で供される寿司も同じ寿司である。回転寿司のシェアは伸びていて、市中の寿司屋は減っている。とは言え、昔からの寿司屋も相変わらず続いている。回転寿司では飽き足らない寿司ファンが厳然といるのである。

 同じように手描きの振袖もインクジェットの振袖も同じ振袖である。それらは寿司屋と同じように呉服屋の棲み分けが出来ている。振袖を沢山売るような店や貸衣装ではほとんどがインクジェットである。手描きの振袖などほとんど扱わない。振袖の枚数的には圧倒的にインクジェットが多いが、手描きの振袖も厳然として支持されている。

 市中の寿司屋が減っているが、間違いなく本当の寿司を食べたいと思っている人達には支持され、今後とも残っていくだろう。それを思うと、呉服業界もインクジェットがシェアを占める中で、本型染や手描きの友禅は数を減らしながらも確実に残って行くと思われる。

 寿司屋と呉服屋は同じ運命にあると思った次第である。しかしながら寿司屋と呉服屋の運命は、全く違った方向に行っているとも思える。

                                                                つづく

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