明治00年創業 呉服と小物の店 特選呉服 結城屋

全日本きもの研究会 ゆうきくんの言いたい放題

Ⅶ-78 呉服屋の居場所(その5)

ゆうきくんの言いたい放題

 本塩沢は水に付ければ間違いなく縮む。これは真実である。水に濡れて縮む生地であれば扱いづらい。それも真実である。しかし、本塩沢は新潟の伝統的織物として長い間織られ続けられ、庶民に愛され続けている。これをどのように解釈し、呉服屋はどのように対処したらよいのだろうか。

「本塩沢は縮みません。」
と言うのは虚偽の説明である。
「水に濡れて縮む本塩沢は難物です。」
と言うのも虚偽である。
お客様には、本塩沢とはどういう織物なのか、真実を説明しなければならない。昔は多くの消費者は、母親や祖母に聞かされて説明されずとも分かっていたかもしれない。

 しかし、現代の消費者は、誰かにそのような事を聞かされることもなく、また昔と違うのは、現在ある意味で完璧な商品が市中に出回っている事である。機械で染められた完璧な染色。ナイロン、ポリエステルなどの化学繊維で織られた対汚性、対縮性の完璧な織物。それらを標準と考えれば伝統的な染物や織物はほとんど難物に分類されるかもしれない。

 それらの事を呉服屋は消費者にどのように説明するのか。消費者の中には、「節のある紬は来たくない」と言う人もいるかもしれない。呉服屋は消費者に紬とは何なのかを説明しなければならない。それでも「節のある紬は来たくない」のであれば、それ以上そのお客様に紬を勧めるのはあきらめなければならないかもしれない。
「水に濡れれば少しでも縮む着物は来たくない」お客様には、化繊の着物を勧めるしかないかもしれない。

 着付けや仕立ても同じである。

 最近、裄の長い着物を見かけるようになった。裄の長さについては再三指摘してきたが、洋服と着物では裄の採り方が違う。しかし、初めて着物を仕立てる若いお客様は決まって洋服と同じ位の裄の長さを希望される方が多い。中には、
「私は手が長いので着物は仕立てられないんです。」
と思い込んでいる若い人もいる。おそらく誰も着物の裄について説明してくれる人がいないのだろう。多くの呉服屋は、お客様の希望通りの裄丈に仕立てているのかもしれない。

 今、着物を着ようとする人の最も身近でアドバイスをする人は、着付師や美容師、お茶や習い事の先生、着物を長く着ている友人や知り合いであるが、その人達はその道で呉服屋はかなわない。

 着付師以上に着付けの事を呉服屋は知らない。お茶やお花についても呉服屋はそれらの師匠以上に知らない。しかし、それらの人達は着物について呉服屋以上に知っているとは思えない。呉服屋はお客様、消費者に対して着物の事を正確に伝えなくてはならない。しかし、着物を売りたいだけの心情でお客様の要望、クレームに「ご無理御尤も」の立場で接すれば、益々呉服屋の居場所はなくなり、それだけではなく呉服の文化そのものの土台を揺るがすことになりかねないのではないだろうか。

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