全日本きもの研究会 ゆうきくんの言いたい放題
Ⅶ-79 きものの価値・物の価値
呉服業界は大変なことになっている。その危機感を訴えてきたつもりだが、業界は益々混迷に向かっている。「大変な」と言うのは、「いい加減な」業界に成り下がっているという意味である。「いい加減な業界」とは、物の価値が正しく評価されていない業界と言う意味である。
その背景には、業界が何とか生き残ろうとした努力は感じられるが、それが誤った方向に行ってしまった感がある。私は業界が縮小しようとも、「いい加減」ではなく正しく縮小すれば、きものは後世迄生き残り、日本文化であるきものを正しく後世に伝えられると思っている。
では、その「いい加減」の根本は何か。何故、物(きもの)の価値が正しく評価されない業界になってしまったのか。それを創った原因は、「きものを購入する消費者が、きものの価値を正しく判断できない」事にある。それが為に呉服業界は、それを逆手に取って「いい加減」さを増して行ったのである。
健全な業界であれば、その物の価値に則した価格でなければ売れない、と言う大原則がある。合成酒を吟醸酒の価格で売ろうとしても売れない。消費者の舌は正当な価値判断をする。手創りの陶器と鋳込み造りの陶器では価格が違う。鋳込み造りの陶器を手創りの陶器の価格では売れないからである。食品も本当に美味しい物は高い。不味い物は高くは売れない。
これらは全て消費者の価値判断で決められる。消費者が価値ありと判断したものは高価でも流通し、そうでない物は高値では流通しない。
消費者の価値判断と言うと、専門家から見れば、素人判断と捉えられる事もあるかもしれない。その時々の流行や風潮に躍らせられて消費者が群がる、と言う事も確かにある。しかし、長い目で見れば、消費者の判断はかなり正確だと私は思う。
突然爆発的に売れた商品が一年後には見向きもされなくなる例も数多く見られる。消費者は基本的に物の価値、価格を決定していると思う。
しかしながら呉服業界においては、余りにもいい加減な価格がまかり通っている。捺染の着物が作家物だと称して法外な価格で売られている。型糸目の付下げが数百万円で販売された例も私は知っている。捺染の江戸小紋を型染の江戸小紋であると言って高値で売られている。
これらは呉服屋の巧みな「あの手この手」の商法で消費者が踊らされている面もあるが、基本的には「きものを購入する消費者が、きものの価値を正しく判断できない」のが根底にある。
きものの価値判断、着物の良さを説明するのは大変難しいが、良い着物、価値ある着物はどういう物なのかを説明して行きたいと思う。
つづく