全日本きもの研究会 ゆうきくんの言いたい放題
Ⅶ-79 きものの価値・物の価値(その11)
私は、この業界に入ってからおそらく何千枚と言う友禅染を見て来た。京友禅、加賀友禅、江戸友禅など様々な友禅があり、また型糸目の友禅、最近はインクジェットの友禅もある。そして、それらの価格は千差萬別である。ここで言う価格は卸の価格なので、小売屋の意図による法外な価格ではない。我々が目にする価格は、商品の品質に直結するものである。
始めは子供の時の絵画展よろしく、私もどれが良い商品なのかが分からなかった。安い友禅の訪問着と加賀友禅の訪問着を見て、何故こんなに価格が違うのかも理解できなかった。
しかし、多くの友禅を目にするうちに次第にその違いが分かってきた。
最初は、柄を微細に正確に描いている友禅が良いのかと思っていた。写実に忠実な友禅である。しかし、そういった友禅は見て飽きてくる。私に目を開かせてくれたのは加賀友禅であった。
当時、認定された加賀友禅の伝統工芸士六人、能川光陽、成竹登茂男、毎田仁郎、梶山伸、由水十久(初代)、矢田博、諸士が未だご健在の時だった。当時の加賀友禅作品は「加賀五彩」「虫食い」「外ぼかし」といった加賀友禅伝統の技法を忠実に用いたものだった。
それら伝統工芸士の作品が入ってきていた。当時は呉服の需要は今に比べれば旺盛で、良い作品は入荷して直ぐに売れて行った。
そして、私が勤めていた問屋のロビーには加賀友禅の巨匠、木村雨山氏の巨大な額が掛けてあった。幅は2メートル位。高さは1メートル位あった。反物生地ではできないので、風呂敷生地を使ったものだと言っていた。
その額は、問屋の創業者が足繁く木村雨山先生に通って頼み込み、ようやく描いてもらった作品だと聞いていた。木村雨山氏は既に故人で、伝説的な加賀友禅作家で、値段は付けられないだろうという話だった。
伝統工芸士や木村雨山氏の作品を見ていると確かに素晴らしい。安価な友禅とは全く違ったものに見えた。では、何が違うのか。
木村雨山をはじめ、当時の加賀友禅伝統工芸士の作品を見ると面白い事に気が付いた。遠目にも素晴らしい花柄や山水柄が見事に表現されている。しかし、近くから見ると糸目で仕切られた柄は、その一つ一つは単色で塗られている。ぼかしの技法はあるけれども、基本的に糸目で囲われた部分はあたかも塗り絵の様に塗られている。花の柄であれば、写実的に雄蕊や雌蕊一本一本を細かく書くのではなく非常に大胆である。
糸目で囲われた柄に色を指して行く。いかにも単純そうであるが、その一つ一つの積み重ねが加賀友禅の壮大な柄を形作っている。
つづく