全日本きもの研究会 ゆうきくんの言いたい放題
Ⅶ-79 きものの価値・物の価値(その13)
友禅染の話をしてきたが、着物の染色に於いて友禅染は、その集大成と言える。如何に緻密に布に絵柄を描くかを追求した結果である。
着物の染色の歴史を遡ると、その染色法は友禅染と比べれば単純だけれども、その良さは友禅染に負けるとも劣らない染色法がある。染色法の発達は、染織の良さとは関係なく、それぞれの染色法によってすばらしい作品が造られている。
最も原初的な日本の染色法と言えば、天平の三纈と呼ばれる纐纈、夾纈、臈纈である。
纐纈は絞り染め、夾纈は板締め染色法、臈纈はロウケツ染である。纐纈と臈纈は現代にも伝えられ、特に纐纈は絞り染めとして様々な進化を遂げている。
これらの染色法に共通しているのは、如何にして染め分けをするかと言う防染の工夫である。布に染料を浸み込ませれば、たちまち染料は広がってしまう。染めたいところと染めないところを如何にして分けるのか。それが防染である。
纐纈、即ち絞り染めは、糸で縛る事で防染する。布を糸できつく縛り染料に付ければ、糸で縛った所だけ染料が浸みこまない。乾かして糸を解いて広げれば、糸で縛った後は白く残る。この原理で布に柄を描いて行く。
しかし、布の一部を絞っただけでは単純な柄しかできない。布の何カ所かを絞って染めれば、白く銭型に染め抜かれた柄ができる。非常に単純な柄ではあるが、防染に苦労していた当時は画期的な染色法だったのだろう。原理は単純な染色法だけれども、技術の進歩と共にその手法は細密化して行く。
細密化の極致が「疋田絞り」である。小さな絞りが布一面に隙間なく染められる。絞る数を考えれば、とてつもない手間が掛かる。とても手間の掛かる疋田絞りだけれども、疋田絞りの価値を決めるのは手間ばかりではない。
素晴らしい疋田絞りは、同じ大きさの小さな絞りが等間隔で埋め尽くされている。一反を全て染めるとすれば、約40cm幅で13m、即ち5㎡以上を絞らなければならない。整然と同じ大きさで。そう言った作品は、機械で染めたように正確ではあるが、江戸小紋と同じように手作りの誤差がそれを引き立てている。やはり手作りの良さが商品の良し悪し支配している。
四~五十年前、着物が良く売れていた時代に、総絞りの着物は良く売れた。当時でも総絞りともなれば、そう安い物ではない。しかし、安価な総絞りの着物も売られていた。しかし、それは総絞りではなく空絞りの着物だった。
空絞りと言うのは、糸で絞って絞るのではなく、機械で絞ったような跡を付けたものである。生地に絞りらしい柄を染めて、機械で後から絞ったような凹凸を創るのである。一見絞りの様な風合いなので、素人目には絞りの着物に見える。私も初めて見た時には絞りの着物と思っていた。しかし、値段が大きく違う。そして、良く見ると絞ったはずの凸凹と柄が合っていない。
本当の絞りは先端が染まり、周りが白く抜けている。しかし、空絞りは先端が白かったり、谷が白かったりずれている。本物の絞りと比べれば一目瞭然である。
着物の価値、染物の良し悪しはこういったところにも表れる。
つづく