全日本きもの研究会 ゆうきくんの言いたい放題
Ⅶ-79 きものの価値・物の価値(その18)
ゆうきくんの言いたい放題
隣に座り、何気なく着ている着物を見ると、
「あれっ、何を着ているのかな?」
と思った。
少しざらざらした生地で、小千谷ではない。もちろん綿生地ではない。
「えっ、ひょっとして・・・。」
上布生地は蝋で固めたものが多い。反物で見ればツルツルとした反物である。蝋を取って仕立てて初めて本当の上布の風合いが分かる。
もう一度、まじまじと着物を見て、
「〇〇さん、このきものひょっとして・・・。」
彼はにやにやして、
「さすが結城屋さんだね。分かるか。」
「能登ですか、宮古ですか。」
そう聞くと、
「能登だよ。よく分かったね。後で鰻を届けさせるから。」
と言われたが、結局鰻は届かなかった。
男性用の上布は、女性物の様に絣のない無地物もあり、素朴である。友禅や西陣の織物の様な華やかさもない。しかし、その素材の良さは、しっかりと見て取れる。
「きものの価値・物の価値」と言う表題で、「物の良さ」について語って来た。
「良い物とは何か」という答えは一口には言えないが、強いて揚げるとすれば、「人間(職人・作家)の最大限の努力によって創られた正確無比の作品」と言える。ただし、「正確無比」の意味する物は、機械やコンピューターが作り出す正確さではなく、人間(職人・作家)が創り出せ得る最高の正確さである。
そして、もう一つは「人間(職人・作家)による表現の創作」である。表現の創作は、時として正確さを逸脱する事もある。しかし、それは計算された逸脱であって、偶然の難物とは違う。
人間はコンピューターにはなれず、コンピューターは人間の完成を正確に表すことはできない。何に価値を見出し何を「よし」とするかはそれぞれの判断だけれども、人々が昔から培って「よし」としてきた物には価値が見いだせるのではなかろうか。