全日本きもの研究会 ゆうきくんの言いたい放題
Ⅶ-79 きものの価値・物の価値(その5)
一口に「友禅染」と言っても広い意味と狭い意味に使われる。狭い意味では、宮崎友禅斎が確立したという染色法の事を指す。生地に柄を染めようとすると、染料は生地に浸みて思うような絵が描けない。滲みを利用して絵を描く方法もあるが、思った通りの繊細な図柄を描くことはできない。そこでその柄の輪郭に糊を置いて染料が浸みない様にしたのが友禅染である。
最初に青花の汁で花弁や葉っぱなど、細かい柄を下描きし、その線に糊を置いて柄を囲い、その中を染料で染る。多くの工程を経て友禅染は完成する。
さて、手作りで染められる友禅染の良さとは何か。全ての工程が職人の高度な手業で染められている。
最初の下描きは絵画を描くのと同じ技法が求められる。青花の汁を細い筆に浸み込ませて一気に白生地に描いて行く線画である。良い線画とはどのようなものかと言えば、コンピューターで描いた線画と作家の肉筆の線画を思い浮かべて欲しい。その違いは感じて頂けるだろうか。
次に線画に沿って糊を入れて行く「糸目」と言う作業がある。上述したように隣り合った色の違う染料が混じりあわない様にする為の糊置きである。糊は元々米糊を使っていたが、今はゴム糊を使っているようだ。
円錐形の口金が付いた、いわばケーキに生クリームを載せる時に使うような道具で糊を置く。大きさは小さく掌に入るくらいで、糊を絞り出す口金の先の穴は非常に小さい。穴の大きさによって糸目の太さが決まる。細ければより繊細な柄を描く事ができ、また完成した友禅の柄に糸目は目立たない。細ければ細いほど良い友禅染ができる。
しかし、糸目を細くするのは非常に困難である。熟練の技術者は、糸目の太さを一定に入れる事ができる。下手な人が糸目を引こうとすると、糸目が太かったり細かったり、また細い糸目であれば途切れてしまう事もある。糸目が途切れればそこから染料が浸み出して防染が困難になる。糸目を細くすれば糸目が途切れてしまう危険がある。太ければ糸目が目立ってしまう。糸目職人は、糸目をできるだけ細く、また太さを一定に引けるように努力しているのである。
加賀友禅作家の先代由水十久について聞いた話である。
由水十久はとても細かい糸目を引く。童子柄を得意としていたが、その童子の髪の毛の一本一本を糸目で引いていた。由水十久は、とても細い口金を使い、更にその口金を歯で咬んで微細とも言える糸目を引いていたという。
手染の友禅で素晴らしいと思う作品は、糸目が細く太さも一定に引いてある。細くきれいな糸目は手作りの良さを感じさせてくれる。
しかし、本当の手作りの良さは更に深いところにある。
つづく