明治00年創業 呉服と小物の店 特選呉服 結城屋

全日本きもの研究会 ゆうきくんの言いたい放題

Ⅶ-79 きものの価値・物の価値(その6)

ゆうきくんの言いたい放題

 世の中全て技術革新が進んでいる。従来手仕事で行っていたものが機械に取って代わられている。染織の世界でも既に百年以上前から機械により技術革新が行われている。明治の製糸技術はその最たるものである。

 糸目を引く工程は高い技術と手間が掛かる。職人の忍耐も必要だろう。そこで糸目を機械で入れる型糸目と言う技術が開発された。4~50年前の事だと思う。

 スクリーン印刷の様な型を用いて染料の代わりに糊を生地に入れて行く。機械で細く太さが一様な糸目を一気に入れる。「細く」とは言っても初期の頃はそれ程細くはなかった。機械の性能がまだそれほどではなかったのだろう。最初は細く糊を刷り込んでゆくのは難しかったらしい。当時の型糸目は太く、一目で型糸目と分かった。職人の糸目の方がずっと細かった。

 しかし、次第に技術も改良されたのだろう。非常に細い糸目が型で入れられるようになった。技術の革新は素晴らしいものである。

 かくして型糸目の技術によって糸目を入れる作業は職人の手を借りずにできるようになった。また糸目は細く一様な線を引く事ができるようになった。いずれも職人が目指してきた技であった。

 手描き友禅は、下描き、糸目、彩色など全て手で行われるものだと定義すれば、型糸目の友禅は手描き(手作り)友禅とは言えない。

 さて、職人の手による糸目よりも細く正確な糸目だとしたら、手描き(手作り)よりも機械の力を借りた型糸目の方が良い作品と言えるのだろうか。答えは見て比べて頂ければ分かる。

 下手な職人であれば糸目は太く線が粗雑で良さは感じられない。熟練職人の糸目は細く線も綺麗だけれども型糸目程正確ではない。

 さて、熟練職人の引いた糸目と型糸目ではどちらが良いと思えるだろうか。見比べて頂ければ分かるが、人の心に訴えるのは熟練職人の糸目である。正確さに於いては型糸目、即ち機械による技が勝っているはずなのに熟練職人の技には勝てないのである。

 手描きと型糸目では、(正当な値段を付ければ)価格にも差が出て来る。見た目にそう違わなくても機械を使う型糸目は手描きよりも安価にできる。お客様に、
「どうして値段がこんなに違うのですか。」
と聞かれることが良くある。詳しく説明するのは時間が掛かるので、私は手拭を例にとって説明する事がある。

 手拭の染め方も色々とあるが、私の店では「注染」と「捺染」の手拭を扱っている。

「注染」は昔ながらの染め方で、職人が彫った型を使って職人が手で糊を入れながら染料を注いで染める。友禅に例えれば手描きである。一方捺染は、機械が作った型でローラーに生地を貼り付けて染める。いわば印刷・プリントである。注染の手拭は1500円~2200円。捺染の安い手拭いは300円である。価格は極端に違うけれども、二枚の手拭を比べてみると誰もが納得する。

二枚の豆絞り手拭を比べて欲しい。右が注染、左が捺染である。

 捺染は全く同じ●が正確無比に並んでいる。対して注染は、●の形が一つ一つ違い、また完全に整列していない。型職人は捺染のような正確な●を整列するように型を彫っている。

 それでも人間の手業には限界がある。熟練職人でも捺染の型の様に正確には彫れないのである。

 しかし、どちらが良いかと言えば、10人中9人は注染の豆絞りに軍配を揚げる。職人の手業の誤差が温かみを感じさせ心に訴えかけるのである。

 友禅の糸目もこれと同じである。正確無比な糸目は必ずしも良さを感じさせない。むしろ極限まで正確、人間の手業の限界が我々の心に訴えかける。

つづく

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