全日本きもの研究会 ゆうきくんの言いたい放題
Ⅶ-84 夏物(その2)
着物は冬物も夏物も形は同じです。暑いからと言って半袖の着物はありません。ミニスカートのような丈の短い着物はありません。
いつの頃か、ミニスカートのような浴衣が販売された事がありました。若い女性が着ていたのを見たことがあります。洋服に慣れた若い人には半袖や丈の短い着物に違和感はないのでしょう。
しかし、今ミニスカートのような着物はお目に掛からなくなりました。やはり着物は形が同じである、と言う感覚は日本人のDNAにあるのでしょう。結局日本人はミニスカートのような着物は受け入れなかったのだろうと私は思っています。
着物の形が同じなのであれば、袷、単衣、夏物は何が違うのでしょうか。
袷は、その名が示す通り裏地の付いた着物です。表地と裏地が「合わせて」仕立ててあります。単衣はその名の通り裏が付いていない表地だけで仕立てた一枚物の着物です。
では夏物はと言うと、仕立は単衣と同じになります。何が単衣と違うのかと言えば、生地が違います。夏物は「薄物」とも呼ばれます。「薄物」と言うのは「生地が薄い」と言う意味ではなく「透ける」と言う意味があります。
夏物として用いられる生地の代表的なものは、絽と紗です。どちらも絽織、紗織と呼ばれる隙間の空いた織物で透けて見える織物です。他に羅と呼ばれる織物もあります。羅は紗よりも目が粗く網(ネット)の様に見える織物です。詳しくは「きもの博物館7.羅」を参照していただきたいのですが、羅織は非常に特殊な織物で織るのも難しい。巷で「羅」と呼ばれている物は、大抵「粗紗」と呼ばれる目の粗い紗織がほとんどです。「羅」または「粗紗」は目が粗いので、着物に仕立てるのには適さず、コート地か帯地に使われています。
絽、紗、羅は夏物に用いられる織物組織の名称です。夏物は織物組織が特徴的ですが、他に夏物に使用される生地があります。夏物の生地と言えば麻でしょう。今は麻生地と言えば夏の素材です。しかし麻生地が夏用とされるようになったのは昔からではありません。
麻は古来日本に自生し、夏物に限らず衣類の生地の主流でした。絹は古代から日本で生産されていたと言う説もありますが、その後も絹の生産量は少なく貴族の手にしか渡りませんでした。現代の普段着の主流である綿は歴史が浅く、平安時代には日本に伝わったらしいのですが、実際に庶民の手に渡るのは江戸時代に入ってからでした。それまでは麻生地が春夏秋冬を問わずに衣類の主流でした。
冬も麻の着物を着ていましたが、寒い時には麻の綿入れを着ていました。綿入れと言っても絹も綿もありませんでしたから、中に入れる綿は麻の屑だったようです。いくら綿入れと言ってもさぞ寒かったでしょう。
しかし、現代では麻は夏の象徴のように云われます。洋服でも、麻のスーツと言えば夏物です。着物でも麻は夏の着物として受け入れられています。
「絽」「紗」「羅」と「麻」はその言葉の範疇上同じではないのですが、この四つが夏物を象徴する言葉です。
つづく