全日本きもの研究会 ゆうきくんの言いたい放題
Ⅶ-84 夏物(その3)
「絽」と「紗」の違いについて良く質問されることがあります。生地を見て戴ければ一目瞭然なのですが、「紗」は細かい網の目、または目の細かい篩のような織物です。それに対して「絽」はスリットの様に隙間が空いています。緯糸一本分の隙間を創り、次は三本緯糸を通し、また一本分隙間を開ける、と言った様に織って行きます。三本緯糸を通した絽を「三本絽」と言い、五本横糸を通した絽を「五本絽」と言います。また、スリットが縦になった「縦絽」と言う生地もあります。
絽や紗の手触りは、と言うと紗はシャリ感があり、絽は滑らかで縮緬と変わりません。「縮緬」と言うとシボの高い風呂敷地を連想される方が多いかもしれませんが、絽に使われる生地はシボがほとんどない縮緬地がほとんどです。シボの高い絽の生地は「絽縮緬」と呼ばれています。
「絽」「紗」「絽縮緬」いずれも夏物には変わりはないのですが、着る時期は微妙に違うとされています。 「紗」は盛夏に着るものだと良く言われます。「盛夏」と言う言葉がどの時期を指しているははっきりしませんが、「梅雨明け」を意味するのだと思います。紗はシャリ感があり、また絽よりも透け感もあります。と言う事で「紗は盛夏」と言う事になったのだろうと思います。
「絽」は夏用の生地として物の本には7月から8月いっぱい、即ち7月1日から8月31日までと書いています。一般的な解釈はその通りだと思いますが、私には少し疑問があります。
疑問と言うのは、「絽は夏物ではない」と言うような過激なものではなく、「何故7月1日なのか、何故8月31日なのか」と言う事です。
古来、日本人は着物を着てきました。春夏秋冬季節によって衣替えをしてきました。今は、袷、単衣、薄物と三回衣替えをしています。その昔は四回またはそれ以上だったともいいますが、季節の変わり目はずっと継承されてきたはずです。
いつの頃から「夏物は7月1日から」と決まったかは分かりませんが、昔は太陰暦でした。今とはずれています。時期によって違いますが一月位ずれる場合もありますし、閏月と言う月が二度訪れる年もあります。昔の人達は季節の変わり目、衣替えの基準をどこに置いていたのでしょうか。
今年の(令和6年)7月1日は、旧暦では5月26日になります。つまり今の尺度で衣替えの時期を設定すれば、昔の人は5月26日に衣替えをしていたことになります。これは、今年の暦を基準にした場合で、新旧の暦は毎年同じではありません。
「夏物は7月1日から」と言うのは、現代の人が一つの区切りとして決めたもので昔の人達の基準とは一致しないと言えます。
とは言え、衣替えをいつするべきかを定めなければなりません。いつ衣替えすべきか、と言うのは、私はそれほど問題ではないと思うのですが、巷では「いつから」とはっきりしなければ気が済まない人が多いようですので、あえて申し上げます。
つづく