全日本きもの研究会 ゆうきくんの言いたい放題
Ⅶ-84 夏物(その4)
自然人がいつから夏物を着るのかと言えば、それは「暑くなった時から」です。暑ければ涼しい衣装に着替えるのは世界中どこでも一緒でしょう。同じように寒くなれば温かい衣装に着替えるでしょう。
日本では四季の区別がはっきりしていますので、季節の移り変わりには殊更気を使います。そこで季節を感じる生活感を大切にして、「○○は×月から着る」と言うようなしきたりができたのでしょう。季節を生活に取り入れるという視点は、四季の衣替えと言う実に日本的であり、大切にしたい日本文化と言えます。季節を感じる一つの要素として衣替えは守って行かなくてはならないものです。では、いつ何時衣替え、夏物に着替えればよいのでしょうか。
7月1日と言うのは、いかにも人為的に思えます。数字的な区切りとして、「六月までは単衣、七月から薄物」と言うのは、誰にも分かり易いのでしょう。しかし、その根拠は何か、と言えば余りはっきりしません。
先に揚げたように、昔の暦は今とは違っていました。現代の太陽歴が正しいとすれば、それを太陰暦に当てはめた場合、必ずしも6月1日とか5月1日とはなりません。切りの良い日付にはなりませんので、現代の「7月1日から」と言う根拠は見当たりません。
夏の着物である浴衣は何時から来て良いのかと言う質問も受ける事があります。
浴衣は真夏に着るものですが、その「真夏」とは何時からを挿すのか、はっきりした答えは聞いたことがありません。お盆の時に浴衣を着るのは誰でも同意できることです。山形では8月の5日から7日まで花笠祭りが行われます。その時は浴衣を着た人たちで街が覆いつくされます。お客様からも着付けを頼まれることもあります。全国の夏祭りは日にちが違っても皆浴衣姿で参加します。
浴衣は夏物なので7月1日からと言うのも一つの答えでしょう。しかし、その問いに、次のような回答を聞いたことがあります。
「東京(江戸)では、三社祭から浴衣を着ます。」
三社祭は五月中旬に行われます。中旬と言うのは日付が決まっている訳ではなくて五月の第三土曜日の前後三日間と言う事らしいです。年によって日付が変わります。
「浴衣は三社祭から着る」と言うのは江戸(東京)の人から聞いた話でそれが本当なのかどうかは分かりませんが、少なくともそれを守っている人達がいるのは真実でしょう。それが本当だとすれば、江戸で浴衣に着替える日は年によって変わります。〇月〇日より、と言うような区切りの良い日ではなく三社祭と言う風物詩を境に衣替えすると言う事です。
私はその話を聞いた時には「成る程、日本の季節の変わり目とはそう言うものか」と思いました。衣替えの区切りは、日付ではなく生活の中の行事、と言う事です。
浴衣を着るのは暑い季節です。しかし、その暑い季節と言うのは南北に長い日本では地域によって違うはずです。全国的に「〇月〇日より浴衣を着る」と決めてしまえば、それにそぐわない地域も出てくるはずです。
つづく