明治00年創業 呉服と小物の店 特選呉服 結城屋

全日本きもの研究会 ゆうきくんの言いたい放題

Ⅶ-84 夏物(その9)

ゆうきくんの言いたい放題

 ツヅが観察した日本の衣替え事情は、ほぼ男性の物だったかもしれない。「他の衣類の上に着る」物とは羽織を意味しているのだろう。男性の正装は紋付羽織であり、正式な場で羽織はつきものだった。

 それでもツヅの書き残した日本の着物の習慣は女性も含め現代の着物事情に大きな示唆を与えてくれる。

 季節による衣替えは、本来の衣類の役割すなわち暑い時には涼しく過ごすと言う着ている本人の事情と共に、それを見る周囲の人に季節感を感じさせる役割がある。

 絽や紗の透け感は、見ている人に清涼感を与える。暑い夏の日に絽の着物の裾が風に軽く煽られて揺らぐ様は見る人に涼しさを与える。紗袷の柄が織りなすモアレ模様は夏ならではの物である。

 冬場は逆に見る者に暖かさを感じさせる着物を着る。袷仕立ての着物は薄物とは違って鈍重感があり清涼感は感じられない。また重ね衿なども暖かさの演出である。

 さて、ここで考えなければならないのは、着る人にとって心地良く、見る人に季節感を感じさせるにはどうするのかである。

 季節が季節通りの気候であれば問題はない。夏場は着て涼しく、見た目も涼しい薄物を着用すればよい。しかし、季節に違う気温であった場合は工夫を余儀なくされる。それこそが「その季節に、上に着るものはその季節の着物」なのではないだろうか。

 見た目は、「上に着るもの」で見た目の季節感を演出する。そして、中に着るものは体温保持の為の合理的な着物を着る、と言う事だろう。

 現代の着物の事情を勘案するに、「暑くても我慢して・・・」「寒くても我慢して・・・」と言うシーンは必ずしも気候の異常から来るものではなくて、
「〇月1日から××を着なさい。」
と言う極人為的な季節の区切りからも来ている。五月の暑い日に、
「五月は袷の時期なので、お茶会は袷を着て来なさい。」
と言う過酷な御下命には、ツヅの書き残した風習を取り入れてはいかがだろうか。

 ツヅが観察した男性は羽織を着用しているが、女性特に茶会の場合は羽織を着用しない。それでは「上に着るもの」即ち長着は袷にする。又は胴抜きにしても良い。そして長襦袢は夏物、紗や麻を着る。半襟は外から見えるので「上に着るもの」と同格の袷用の半襟を付ける。見た目袷の時期で着る本人はできるだけ快適に着る工夫である。

 逆に六月の肌寒い日には、襦袢を暖かく着ると言う工夫もできる。季節に応じて快適な着物を着て見てはどうだろうか。古の日本人は既にやっている事ではあるが。

着物のことならなんでもお問い合わせください。

line

TEL.023-623-0466

営業時間/10:00~19:00 定休日/第2、第4木曜日

メールでのお問い合わせはこちら