全日本きもの研究会 ゆうきくんの言いたい放題
Ⅶ-85 スクラップアンドビルド(その4)
着物は直しながら着られてきたが、とりわけ普段着の着物は、擦り切れて雑巾になるまで着られていた。
紬、絣は裏表同じである。表が汚れたり擦れたりしたら裏返しにして仕立てる。前身頃の膝が擦れて薄くなると解いて裏返して仕立てる。そうすると、擦れていた前身頃は下前に入り、目立たなくなる。下前だった身頃が上前に来るので傍目には新しく見える。そうやって昔から着物は着られてきたし、私の店ではそのように仕立て替えする事がある。
「着物は高価なので何一つ難があってはならない」と言う目で見られれば、そのような修理や仕立て替えは考えられないかもしれない。もちろん友禅のフォーマル着物はそういう訳には行かない。しかし、本来着物はとても鷹揚な性質がある。
フォーマルの着物でも仕立て替えられることに違いはない。解いて洗い張りをすれば、また仕立て替えられる。特に絵羽の場合は、小紋と違って身頃の丈は決まっている。小紋の場合は、身長・身丈に合わせて反物を裁ち切るけれども、絵羽の場合は身丈に合わせて内揚げをするので、解けば身丈を長く仕立てる事ができる。
先に私が祖母の着ていた着物を着ている話をした。女性の衣装を男性の衣装に仕立て替えられるのは日本の着物の他にはないかもしれない。着物の場合、女性の着物はお端折があり、男性の着物はつい丈である。身長は男性が高いけれども、身丈は女性の方が長い。男性と女性の身長差はあっても、仕立て替えられるのである。
身巾については、着物は直線裁ちが基本である。寸法で余計な部分は折り込んで仕立てるので解けば元の幅になる。反物の幅は変わりがないので、身幅や裄も出す事ができる。ただし、昔の反物は幅が狭い物もある。また最近の男性は身長が高くなり、雪が長いのでキングサイズ(反物幅が一尺以上)でなければ仕立てられない場合がある。その場合は、残念ながら女性の着物を仕立て替え出来ないが、元々の日本人は通常の反物幅で仕立て替えには対応できたのだろう。
着物はエコである。どのような修繕にも鷹揚で、仕立替えにも対応できる。江戸時代は完全な循環社会だったと言われている。正に着物はその一環を担っていた。
そのエコの象徴のような着物が、仕付け糸も抜かずに古着に出されている。何とかならないものかと思う。
着物が着られなくなったのは事実である。親の着物を受け継いで着ようと言う人も少ない。仕立てた着物が着られる事もなく、また数回着ただけで放り出されるのは致し方のない時代なのかもしれない。一筬一筬織った人の仕事、一本一本糸目を引いた職人の事を考えると何ともやりきれない気持ちになる。
呉服屋として、お客様には是非着て頂ける様にお勧めしたい。着もしない着物を押し付けるようなことはあってはならない。