全日本きもの研究会 ゆうきくんの言いたい放題
Ⅶ-86 着物絶滅危惧種(その6)
男物の絽の半襟と言わずとも、女性の白の半衿すらも少しずつ姿を消している。そう言うと驚かれるかもしれない。「白の半襟などどこでも買えますよ。」と言われるだろう。
しかし、白の半襟は徐々に姿を消し、品質も変わってきている。
三十年前に使っていた半襟はもうとっくに姿を消した。当時正絹の半襟は、1000円、2000円、3000円の三種類。3000円の半襟は一巾織の厚い塩瀬の生地だった。1000円の半襟も倍巾を裁ってはいたが、3000円の半襟に比べれば薄いとは言え、普段使用するには十分だった。
その半襟が無くなってから他の問屋から半襟を入れていた。それで間に合っていたが、何時の頃からか生地が薄くなってきた。最初から薄くはなかった様に思うが、十年前くらいだろうか。半襟にしてはどうも薄い。しかし、他の半襟はなくその半襟を使用していた。
その内に他の問屋がひょんなことで半襟を持ち込んできた。現在使用している半襟である。その半襟は、以前使っていた様なしっかりとした半襟だった。種類も三種類、一番厚手の塩瀬生地と少々薄手の塩瀬生地。それら二枚は一巾織である。そして一番安い半襟は倍巾織の物だった。価格は少々高かったが、その時使っていた薄い半襟に比べれば十分に納得できる品質だった。
それ以来、その半襟を使っている。ちなみに価格は、厚手の塩瀬は6000円、次が4400円、倍巾の半襟が3200円である。時代と共に価格は上がっているが、呉服屋としては最後の半襟の様に思う。
以前、薄手の半襟を納めていた問屋さんがやって来てその半襟を見せたところ、
「ええ、こんな半衿まだ織られているんですか。」
と言って驚いていた。
織っているのは小さな織屋さんなのだろう。その半襟は10本単位でしか注文できない。かつてどこの問屋でも半襟を扱っていた当時は、半衿1本でも送ってくれた。半襟の需要が減り、作る方では細々とした注文に応えていれば商売にならないのだろう。生産の現場、流通の現状を考えればそうならざるを得ないのだろう。
私の店でも在庫が無くなれば10本ずつ注文している。安い半襟は回転が良いのだが、6000円の半襟となると10本の在庫は苦しいが仕方がない。
品質としては、私は十分満足してお客様に奨められる。しかし、いつまで供給してもらえるのかが心配である。もしもその織屋が廃業したら半衿は入って来なくなる。その時他の問屋、織屋にこの程度の品質の半襟があるのかどうか心配になっている。
昔は半襟に限らず、
「お宅に無かったら他から買うからいいよ。」
と問屋に啖呵を切れたものだが、今の呉服業界で品質の良い物を安く仕入れようとすればそうもいかなくなった。
半衿と言う着物に欠かせないパーツが無くなれば着物は着られなくなる。半襟が絶滅するのはずっと先の事だけれども、ベクトルは確実にその方向に進んでいる。
つづく