全日本きもの研究会 ゆうきくんの言いたい放題
Ⅶ-88 着物と日本人のマナー
先日、APECでの石破総理大臣のマナーが物議を醸していた。
外国の首脳が挨拶に来た時に座ったまま握手をしたと言うのが発端で、石破総理のマナーについてあれこれ取りざたされていた。私は、この「座ったままの挨拶(握手)」に日本の国民が敏感に反応したことに大変関心を持った。果たして今の日本人はマナーをどのように捉えているのかと。
結論から言えば、西洋では立って挨拶するのがマナー、日本では座って挨拶するのが礼儀である。ただし、西洋で「座る」は椅子に座ることを意味する。そして、日本で「座る」は畳に座る(正座する)事を意味している。
西洋、中世の絵を見ると、王様が玉座に座り、家臣が両側に立っている構図が多い。座っているのは最高権力者であり、家来は立っている。その王様と家来の関係がよく分かるストーリーのテレビ映画を高校の頃見た覚えがあり、それは強烈な印象だった。
そのドラマの題名も全体のストーリーも覚えていないが、ヨーロッパ中世、イギリスあたりのドラマだった。
若い王様が、何らかの理由で城に戻れなくなり、それを助けた男が自分の家に王様を連れて行く。そして、食事を作ると王様は美味しいと言って食べる。その男がテーブルについて座ろうとすると若い王様は、
「無礼者! 朕の前で座るとは無礼な。」(と言ったと思う)
そう言われて男は王様の前で立ったまま食事をする。
それから何日も何日も食事の時は王様が座り、男は立ったまま食事をしていた。しかし、しばらして男は王様に
「どうか、食事の時に座ることをお許しください。」
とお願いする。
すると若い王様は、世話をしてくれた男への恩返しだったのだろう。男をひざまずかせ剣を採って男の肩に当てて、
「朕の前で汝が座ることを許す。」
と言って、それ以後男は食事の時に王様と並んで食事をする事ができた。
その後、王様は城に戻る事ができた。
王様は王様の出立で玉座に座り、両側に多くの重臣達が立っていた。そして、その男を招き入れ、労をねぎらった。
すると、王様の前に進み出た男は、傍らの椅子を持ち出し、王様の前に置いて座った。それを見た家臣たちは、一斉に慌てて男に駆け寄った。しかし、王様は、
「良いのだ。この男には朕の前で座る特権を与えている。」
そう言って家臣達を治めた。
西洋では目上の者が座り、目下の物は立つのが礼儀である。身分が同じであれば、双方が立つか、双方が座る。国家元首が握手をする時には双方が立って握手をする。トランプ大統領が阿倍総理と双方が座って握手をしたことがあった。西洋の礼儀はそう言うものなのだろう。
今回の石破総理の振舞について私は分からない。外交事例の中で、軽い挨拶の時にあのような挨拶があるのかどうか。軽い挨拶、「よう、しばらく。」と言う程度の挨拶をする時に許されるのかどうか、またそのようにシチュエーションだったのか、外交上の慣例はどうなのだろうか。専門家にお聞きしたい。
目下の者が立つ、と言う慣習は西洋文化の行き渡った今の日本で生きている。
つづく