明治00年創業 呉服と小物の店 特選呉服 結城屋

全日本きもの研究会 ゆうきくんの言いたい放題

Ⅶ-88 着物と日本人のマナー(その3)

ゆうきくんの言いたい放題

 私がお客様に仕立物を届ける時には、多くの場合和室、畳の部屋である。和室での作法は、洋室とは異なり云わば正反対の作法である。

 主人に会う目的で他人の家を訪問した時、玄関先であいさつし靴を脱いで家に上がる。和室に案内され、まずそこで座って挨拶をする。畳に座り、手を畳に付けて頭を下げる。日本間では見慣れた風景である。

 案内した人は、座布団を出して、
「ただいま参りますからお待ちください。」
と座布団に座るように促す。これは洋間で案内の女性がソファに座るよう促すのと同じである。しかし、そこで座布団には座らずに待つのが礼儀である。これも洋間で立って待つのと同じである。

 しばらくしてお茶を運んできて再び座布団を勧められる場合がある。この時も洋間と同じく、一旦座布団に座り、お茶を運んできた人が退席したら再び座布団を降りるか、あるいは座布団に座ったままで待ち、主人が入って着たら即座に座布団を降りて畳の上で挨拶をする。

 日本間の座敷で座布団は特別な意味を持つ。座敷では座るのが基準であるが、座布団は一段高い位置を意味する。座布団に座ったままで挨拶するのは非礼に当たる。少なくとも目上の人に挨拶をするのに座布団に座ったままと言う事はない。

 主人に対して座布団を降りて挨拶をして、主人に勧められて初めて座布団に座ることが許される。

 これらの一連の動作は面倒なようにも見えるが、日頃の動作からすればごく自然の動作である。

 洋間と和室では「立つ」と「座る」はその意味が逆転する。洋間と和室を使い分ければ問題はないのだが、昨今の生活の洋風化でその区別がつかなくなっている場面にも遭遇する。

 以前息子が中学の頃、家庭訪問で担任の先生がやって来た。家に上がってもらい、和室に通して座って挨拶をした処、その先生は立ったまま頭を下げて挨拶をしていた。座敷で立ったままの挨拶。こちらは座って挨拶をしている。「学校の先生が・・・。」と言う事もあり、何とも奇妙なシーンに思えた。

 私の母は、祖父すなわち私の曾祖父から
「立ったままで話をするな」
ときつく言われていたそうである。

「立ったまま」とは座敷で話をする時の事である。
「座敷では必ず座って話をしなさい。」
と言う教えである。昔は洋間などなかった時代なので、「座って挨拶」「座って話す」はほぼ100%の作法だったのだろう。

 私は洋間と和室の作法が違う事、いわば正反対であることに違和感を感じないし、自然にそう言うものだとの認識がある。

 しかし、先日「これはどうした物だろう」と考えさせられることがあった。

つづく

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