全日本きもの研究会 ゆうきくんの言いたい放題
Ⅶ-89 着物・・時代と共に(その14)
「これ、いくらで売っていると思う。」
先輩社員が言った。私は、これだけたくさん売るのであれば、さぞ安く売っているのだとも思った。
「〇〇円くらいですか。」
先輩は首を振って、
「なーに、××円で売っているんだ。」
××円と言うのは想像した数倍の値段だった。
二十年前の結城屋の商売しか知らなかった私にとっては驚きだった。これだけの数の反物(しかも同じ反物)を販売している。価格は利益率が非常に高い。店にいらっしゃるお客様に一反一反お勧めして売っている商売とは全く違う。その後もその呉服屋を注視していると驚かされる事ばかりだった。
しかし、そのような商売は、その呉服屋に限らなかった。大規模な呉服屋は、華やかな展示会を開き沢山のお客様を集めていた。会場も昔とは違い、ホテルや料亭、展示会場と言った会場費の高額な処だった。そして、その広い会場を埋める為に問屋はその度沢山の商品を送っていた。
そう言った展示会では、それまでとは全く違った流通の仕組みとなっていた。
➀呉服屋の社員は展示会に客を集めるのに奔走する。
➁問屋は呉服屋が要求する商品を工面して展示会に出品する。
➂呉服屋は展示会を企画し、広い展示会場、様々な企画を準備する。
(企画とは、豪華な食事であったり、お土産であったり、有名人の来場等々)
➃展示会場では問屋毎のブースが設営され商品が並べられる。
➄問屋は与えられたブースに商品を並べると共に、社員を配置して来場したお客様に商品について説明し販売する。
➅呉服屋の社員はお客様を展示会に連れて来るのが主な仕事で、販売は「マネキン」と呼ばれる販売専門の人を雇って展示会に配置する。
➆来場したお客様は、社員にアテンドされながらブースを廻り問屋の社員に商品説明を受ける。
➇問屋の社員と言えども商品知識はあるが、着物を着る知識はないので「マネキン」さんが購入を勧める。
大体以上の様な流れで展示会が行われていた。
さて、その場合の呉服屋、問屋の役割と言えば、呉服屋が客を集め、問屋は商品を揃える、と言ったはっきりとした分業である。そして、販売について言えば、問屋が商品の説明をして、呉服屋が雇った「マネキン」さんが商品を販売する。
またお金の流れは、問屋は売れた商品だけ呉服屋に請求し、販売代金は呉服屋が行い、仕入れ代金を問屋に支払う。言って見れば、呉服屋主催の展示会ではあるが、呉服屋と問屋の完全分業である。
それまで私がイメージしていた、呉服屋が問屋から商品を選んで仕入れをし、それを一点一点お客様の好みを考えて勧める、と言った商売とは全く違っていた。
呉服屋は商品仕入のリスクを回避する事ができる。呉服屋の社員は、格別着物の知識がなくても集客さえすれば良い。販売は問屋、「マネキン」がやってくれる。そう言った呉服屋にとってのメリットはあったが、デメリットは無かったのだろうか。実は業界にとって大きなデメリットがあると私は感じていた。
つづく