全日本きもの研究会 ゆうきくんの言いたい放題
Ⅶ-89 着物・・時代と共に(その16)
それまで展示会は各呉服屋が行っていた。問屋さんは商品を貸すだけであった。しかし、何時の頃からか問屋さんが展示会を催すようになった。
問屋さんは、展示会はお手の物である。と言っても消費者相手ではなくバイヤー、即ち小売店に対しての卸展示会である。京都の室町では毎月初めに展示会(売り出し)を行う。新作の着物をはじめ、商品を揃えて小売屋さんを招く。
展示会は季節によって「春物発表会」「夏物新作展」「新作秋物展示会」と言うような触れ込みで商品を並べていた。商売の相手はあくまでも呉服屋、小売屋である。そのノウハウをもって「消費者セール」と称する展示会を始めた。
「消費者セール」と言っても、直接消費者を招いて展示会、販売会をするわけには行かない。昔から築かれてきた流通ルートがあり、その慣習は容易に無視する事はできない。
昔から呉服の販売は、-+単純化すれば(あくまでも単純に言えば)、染屋織屋のメーカーから問屋が商品を買い取り、その商品を小売屋に卸す、と言った構造である。小売屋は問屋から商品を買い取り、それを消費者に売る。小売屋が消費者に売る価格は、当然問屋から小売屋が買い取る価格より高くなる。その差がマージンとなって小売屋の利益になる。
もしも、問屋が消費者に商品を売れば、そのルートは崩壊する。ある問屋が直接消費者に販売したとすると、その問屋から商品を買っていた小売屋はその問屋からは仕入れなくなる。いわば呉服流通の仁義とも言えるものである。
さて、問屋は多くの小売屋を得意様に持ち、その多くは大規模な展示会を開く事の出来ない小さな呉服屋である。そこで始めたのが「消費者セール」である。
「消費者セール」は、問屋が広い会場に商品を並べる。正札の価格は問屋の卸値に小売屋のマージンを載せたものである。商品は問屋の付き合いのある染屋織屋からも借りて調達する。案内状を創り、取引のある小売屋に渡して消費者を集めてもらう。小売屋から言えば、お客様を問屋さんが設営した展示会にお連れする、と言う形である。
仮に、消費者セールを主宰する問屋さんが50軒の小売屋さんに2人ずつお客さんを誘客してもらえば100人の消費者が展示会に訪れる事になる。小売屋さんは、商品が売れた時には、その商品だけを仕入れるので、在庫リスクを回避できるメリットがある。
呉服業界が陰りを見せてきた中で、小売屋にとって仕入れをせず、また沢山の商品をもってお客様に商売ができるので渡りに船であった。
そんな事情で、それぞれの問屋が競う様に消費者セールを催すようになった。取引先の問屋からは消費者セールの案内状が送られてきた。消費者向け案内状である。封筒の裏は無地で、各小売屋が店名を入れるようになっている。案内状を貰った消費者は、あたかもその呉服屋さんが催す展示会と思わせる物だった。
展示会場は、ホテルの大広間だったり、また料亭を貸し切って、と言うケースもあった。より豪華な展示会に見せる為の演出も競い合うようにエスカレートしていった。
私の店でも、初めの頃消費者セールに参加していたが、次第に弊害が目に付くようになった。
つづく