全日本きもの研究会 ゆうきくんの言いたい放題
Ⅶ-89 着物・・時代と共に(その19)
昔、消費者セールに行った時、並んでいる雨コートの価格は私の店の二倍以上だった。余りに高いので問屋の社員に聞いてみると。
「うちは取引がないんで一社絡んでいるんですよ。」
と言っていた。そこには価格に対するこだわりはなく、機械的にマージンを上乗せして上代価格が決められているのがありありだった。
このような着物の流通の仕組みは消費者には分からない。目のある消費者であれば、
「どうしてこんなに高いの!」
と思うのだろうが、残念ながらそのような指摘をする消費者にはお目に掛からない。
様々な理由で消費者セールでは価格が非常に高い物になってしまう。以前消費者セールで見かけた商品が、私の店の4~5倍の値段が付いていたこともあった。それ以来20年以上前から私の店では誘われても消費者セールには参加しなくなった。
私の店のお客様を連れて行こう物なら価格に驚かれる。
「どうしてこんなに高いんですか?」
と問われても返答する術がないからである。
私が消費者セールに参加しなくなった理由は他にもある。消費者セールで行われる着物の売買はとても商売とは言えない様になって来たからである。
消費者セールでは、問屋さんが商品を調達して並べる。商品ごとにブースが造られて人が配置されている。商品の前にいる人達は主に問屋の社員ではなく染屋織屋、産地問屋の人達である。染屋織屋、産地問屋が持ち寄った商品でブースを造り、やってきた消費者に商品の説明をして自社の商品を売り込む。
また、会場には問屋や染屋織屋、産地問屋の人達の他に「マネキン」が配される。以前説明したけれども「マネキン」とは、着物の販売を専門とする人たちである。着物を着た女性で、雇われた染屋織屋、産地問屋のブースに立ってやってきたお客に商品を勧める。
マネキンさんは、お客様に自分のブースの商品を一生懸命に勧める。昔、私がお客様を連れて消費者セールに行った時の事である。
お客様は、気に入った着物を見付けて約定した。広い会場なので一回り商品を見ているととあるマネキンさんが声を掛けて来た。自分のブースの商品を手にして私のお客様に盛んに勧める。どんな商品だったかは忘れたけれども、余り見かけない商品だったのでお客様もつられてマネキンさんの話を聞いていた。
決してその商品が欲しいわけではなかったが、余りに熱心に勧められ、その場を離れにくくなった。私が中に入って、
「お客様はもう他で決められましたので、結構です。」
と言うと、そのマネキンさんは、
「それでは、そちらはやめてこちらにしたら。」
そう言って食い下がる。
大した商魂ではあるが、お客様の事は何も考えていない。同じような事が他にもあった。
つづく