全日本きもの研究会 ゆうきくんの言いたい放題
Ⅶ-90 小売店、呉服店の役割(その4)
今日の小売の環境は昔とは大きく変ってきている。郊外の大型店に席巻され、零細な小売屋は店を閉め、その数は激減している。インターネットの普及で消費者は買い物に不自由しない。とても便利な世の中になったものである。
しかし、大型店やインターネットの販売で、熨斗紙一枚に対応してくれるだろうか。インターネットで本を買う時には数冊の現物を手に取って見る事はできない。いずれも不便であるが、それを不便と考える人は極少数なのだろう。
小売店もまた、熨斗紙を数枚、十数枚売って商売は成り立たない。あらゆる熨斗紙を扱って、一枚単位で販売するのは専門店の矜持であり、その延長上の大きな商いで商売が成り立っている。我々呉服屋も同じである。最近は呉服の小売事情も随分変わったと思わせられる。
私の店では昔ながらの専門店を堅持しているつもりである。着物を着るお客様が困らない様に、必要な物は全て扱っている(つもりである)。
時折初めてのお客様から電話が掛かってくる。
「結城屋さんですか。お宅では足袋は扱っていますか。」
また、
「すみません、お宅の店に半襟は置いていますか。」
と言った問い合わせである。
足袋も半襟も着物を着るのには必需品である。私にはどうも不思議な問い合わせに思える。お肉屋さんに、
「お宅の店で牛肉はありますか。」
「ひき肉は扱っていますか。」
と言う問い合わせをしているようなものである。
足袋については文数があるので、ひょっとして大きなサイズ、あるいは特殊な足袋を探しているのかと思って、
「何センチの足袋をお探しですか。」
と聞くと、
「23.5センチなのですが。」
と言う答えが返って来る。要するに足袋や半襟を扱っていない呉服屋さんがあるらしい。尤も私の店では30cmまでの足袋を揃えている。30cmの足袋はそうそう売れるものではないが、方々の店を探してきて出会えず、私の店で見つかり、
「ああ~良かった。なかったらどうしようかと思っていたんです。」
と言う言葉を聞くと、専門店冥利に尽きるのである。
しかし、今時のインターネット販売は、足袋一足、半衿一枚から注文できる。送料も無料のサイトもある。消費者は専門店がなくても困らないかもしれない。そうなれば、小売店の役割、呉服店の役割は無くなるかもしれない。
熨斗紙一枚でも注文すれば送料なしで手に入る、と言った究極の通信販売はできるのだろうか。出来たとすれば、また多くの問題が発生する。配達のコストは誰が吸収するのか。増大する貨物は流通や環境に影響を与える。受取人不在の問題も深刻になる。
小売屋、呉服屋が社会に貢献できる幅は次第に狭くなってゆくかもしれない。それでも小売屋、呉服屋の社会的役割は間違いなくあると思う。
つづく