明治00年創業 呉服と小物の店 特選呉服 結城屋

全日本きもの研究会 ゆうきくんの言いたい放題

Ⅶ-97 きものの知識「型糸目友禅」その3

ゆうきくんの言いたい放題

 目が慣れてくれば、上記のような手描きと型糸目の違いは分かるけれども、初めて友禅を見る人や、それほど多くの友禅をもていない人にとっては区別がつかないかもしれない。

 型糸目という技術は呉服業界にとっては画期的な物で、友禅の歴史の中で革命とも言える技術である。しかし、ここに問題が起きている。

 総柄の訪問着を手描きで制作するには大変手間が掛かる。手間イコール人件費となり、高額品となる。昔は人件費は安かったので、型糸目が無くても庶民の手が届く手描き友禅が染められていたのだろう。しかし、今日熟練の染士も少なくなり、昔とは比べ物にならない人件費が手描き友禅の価格を押し上げている。染士の手間を考えれば当然の事で、日本の伝統を守る経費と考えなければならない。

 しかし、手軽に着物を着たいと思っている人にとっては、友禅は高嶺(高値)の花になってしまう。そう言う意味で型糸目の技術は、友禅を庶民の手の届くところまで引き下げてくれた技術とも言える。

 本当に素晴らしい友禅は手描きで、気軽に友禅を楽しみたいと思う人には型糸目で制作する事ができる。友禅を手軽に入手できれば着物の普及にも役立つはずである。しかし、実際にはそうではない深刻な問題も起きている。

 先に書いた通り、素人目には手描きも型糸目も区別がつかない。それは、生産者や呉服業界にとっては、真の意味で良いことかもしれない。型糸目と言う安価な技術で消費者は喜んでくれるのである。100万円の手描き友禅訪問着と似たような型糸目の友禅の訪問着が30万円で買えれば、そして消費者に満足して頂けるのであれば、着物の普及に繋がるのである。

 しかし、消費者が手描きと型糸目の区別がつかなければ、そこには悪の這い入るスキを与えてしまいかねず、実際にそのような事も起こっているのである。

 消費者に、型糸目の訪問着を手描きの訪問着であると説明しても納得してくれる。即ち、30万円の型糸目の訪問着を100万円と言っても消費者には分からない。

 本来ならば、呉服屋は30万円の型糸目の訪問着と100万円の手描きの訪問着の違いを消費者に説明して、消費者の判断を仰ぐべきなのであるが、それとは真逆の対応がなされている事も少なくない。

 実際に次のような事があった。

 以前、訪問着の鑑定を頼まれた事があった。老人が多額の着物を多数購入したことが訴訟に発展したものだった。鑑定の為、その商品が私の処に送られてきた。その中に一枚の訪問着があった。訪問着とは言うものの、柄が少なく付下げ程度だった。

 全体を見て私は直ぐに型糸目であることが分かった。良くあるような型糸目の付下げである。商品は、粗悪な物ではなく普通に染められた型糸目の付下げであ売った。私の店であれば、20万円台から30万円程度の物であった。

 しかし、依頼人の話では、付けられた価格は300万円であったという。私にはとても信じられない事であった。説明によれば、何とか言う素晴らしい作家の作品であると説明されていたらしい。

 私は直ぐに確たる証拠を挙げて、この商品が型糸目で染められた物であり、価格的には通常あり得ない物であると言う報告書を送った。

 何故、その付下げが一目で型糸目であると分かったのかについて次に説明する。そのような知識があれば、余り慣れていない消費者でも、手描きと型糸目を区別する事ができて、価格に惑わされることもなくなるだろうから。

つづく

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