全日本きもの研究会 ゆうきくんの言いたい放題
Ⅶ-98 きものの知識「注染と捺染」(その3)
もう一つの捺染について語ります。
「注染」と「捺染」の説明をして、現物をお目に掛けると当然「注染」の方に高級感があります。女将さんに「注染で」と言われましたが、旅館の浴衣ですので旅館の名前が入ります。注染ですから裏文字が出てしまいます。裏返しの旅館名ができるだけ目立たない様なデザインを考えて提案して納得していただきました。
しかし、見積もりを提出すると、今度はオーナーが難色を示しました。注染は捺染よりも高くなります。コストダウンにコストダウンを重ねた旅館専門業者の浴衣と比べれば価格に大きな開きがあります。そこで「捺染」で染める事にしてデザインをやり直しました。 捺染ですので当然裏表のないデザインに決まりました。
さて、その後仕立ての話になりました。旅館ですので多くの不特定多数の人達が宿泊し浴衣を着ます。背の高い人、低い人、太っている人、痩せている人、そして男女の区別も必要です。
サイズは男女の区別なく、S,M,L,LLの4サイズに仕立てます。どこの旅館やホテルでもサイズは用意されています。そしてその寸法をどうするのかを話し合いました。
旅館用の浴衣のサイズは既製品では大体決まっています。どのカタログを見ても「Mサイズは身丈〇〇cm」「Lサイズは身丈××cm」と言う風に。しかし、ここでまた問題がおこりました。
誰でも経験する事ですが、温泉に宿泊して浴衣を着ると大抵身丈が短いのです。「私はLサイズ」と言ってLサイズの浴衣を着ると、身丈はひざ下30cm位の事もあります。かと言ってLLサイズを着ると妙に身巾が広かったりします。この事について女将さんと良く話し合いました。
身丈が短いのは最初から短いのではなくて生地が縮む事に有ります。綿生地は良く縮みます。加えて旅館の場合、一度来た浴衣は直ぐに洗濯しますので、毎日の様に洗濯をします。綿生地は洗濯ごとに縮みますので旅館の浴衣は古く成れば極端に身丈が短くなってしまうのです。
私の浴衣もそれほどではありませんが短くなっています。10~20年も着ていると綿の浴衣は短くなるものです。年に一度洗濯をして10~20年ですが、旅館の浴衣は1~2カ月で20回も洗濯するのでしょう。
この縮みの問題についても女将さんと話し合いました。するとここでもまた「注染」と「捺染」の違いが浮き彫りになりました。
染屋のおやじさんともこの件について相談しました。「綿生地は縮むのが当たり前」と言うは常識ですが、「如何にして縮まない様にするか」、あるいは「如何に縮みを目立たなくするか」について話しました。その結果「注染よりも捺染の方が縮みが大きい」と言う事でした。
ローラー捺染は、生地をローラーに張り付けて送り、もう一つの型ローラーで挟んで染めます。生地には強い張力を掛けてローラーに貼り付けます。その為に、染上がった生地は目いっぱいに延ばされた状態で仕上がりますので、収縮率は注染よりも大きくなります。注染と(機械)捺染の違いはこんなところにもあります。
通常温泉旅館で使用する浴衣は安価に仕上げるためにローラー捺染が使われます。その浴衣を何度も洗濯して丈の短い浴衣になってしまう訳です。
つづく
