全日本きもの研究会 ゆうきくんの言いたい放題
Ⅱ-ⅴ 消費者セール(その2)
規模の大きな消費者セールでは、ありとあらゆる商品が並べられる。消費者のどんな要望にも応えられるようにと商品を集める。
しかし、大手問屋といえども、全ての織屋染屋と取引があるわけではない。それでも商品アイテムの穴を埋める為に取引のある業者に商品を集めてもらう。仲間貸しという手法である。問屋の間で商品を貸し借りする。その為に、介在する業者が増え、その度に商品の上代価格はつりあがってゆく。
「消費者の為にあらゆる商品を展示会で集める」と言うのは一見消費者の為のように思えるけれども、実は消費者は高い買い物をさせられているのである。
掛かる経費は商品価格に上乗せ。価格は同でもよいからとりあえず商品を集める。そういった価格は本来商売とはかけ離れている。
どんな商売でも「より安く、より良い品を」消費者に提供することによって消費者の支持を得ることができる。しかし、ここでも又呉服業界における「小売価格に対する感覚の麻痺」(Ⅰ-ⅶ参照)が見られる。
前述した通り、消費者セールを行う場所は東京や京都、有名な温泉場や着物の産地などが多い。小売屋はお客さんを連れてその会場に行くことになる。東京の小売屋が都内のホテルにお客さんを連れてゆくことは容易い。しかし、地方の小売屋はそうは行かない。
また、温泉場や産地となれば何処の小売屋であれお客様に同行して会場に赴くこととなる。
例えば私の店で東京の会場にお客様をお連れしようと思えば、新幹線で行くことになる。一人のお客様を連れて行く場合でも最低自分と二人分の運賃が発生する。交通の便が悪いところでは一泊することになる。
こういった交通費等の負担は小売屋によって様々だけれど、小売屋が負担している場合が多い。
山形からお客様一人をお連れすれば私の分とで運賃二人分、約45,000円かかる。宿泊するとなるとさらに3~40,000円程度掛かる事になる。
それらの経費はどこから捻出するのだろう。ただで東京を往復、宿泊できるわけではない。冷静に考えればその経費は誰が負担し小売屋は何で回収しているかは分かるはずである。
さらに、折角だからと消費者セールにいらしたお客様に豪華な食事の接待をしたり歌舞伎の観劇などに招待する小売屋もある。それらのプログラムも主催する問屋が用意する場合が多い。
高級ホテルに泊まり食事や歌舞伎の接待にどれだけ掛かるのだろうか。それを回収するのにいくら着物を売ればよいのだろうか。まことに不可思議な計算式である。
そういった接待は「Ⅱ-ⅳ 展示会」で述べた様々な手法と同じように、お客様を集める(お客様に買わせる)手段に他ならない。
大分前になるけれども、展示会のあり方について問屋に、
「着物の質と価格を重視すべきで、あの手この手でお客様を集めて高い買い物をさせるのは商売の本質ではないし、長い目で見れば呉服業界にとっても良いことではない。」
と言ったのだが、その応えは、
「そんな事(接待費が価格に上乗せされている事)は消費者は百も承知ですよ。消費者セールに来るお客さんはそれが(接待が)楽しみで来るんですよ。今時着物を買いに来る人などいないですよ。」
私は開いた口がふさがらなかった。消費者も馬鹿にされたものである。その問屋は続けて、
「それより今度鹿児島で販売会をするんです。お客さんを連れてきてください。こんなものを用意しました。」
そう言ってサツマイモの入ったネットを取り出して、
「これを下げてお客さんを回るんですよ。『奥さん来ましたよ~。今度は鹿児島ですよ。一緒に行きませんか。』ってね。客が集まりますよ。」
呉服屋はいったい何を売ろうとしているのだろうか。消費者はそれをどのように受け止めているのだろうか。
つづく