全日本きもの研究会 ゆうきくんの言いたい放題
Ⅶ-95 きものの知識「加賀友禅」
Ⅶ-95 きものの知識「加賀友禅染」
「加賀友禅」と言う言葉は、着物好きであれば誰でも知っている。高級染物としての印象が強いかもしれない。
「加賀友禅」は文字通り加賀で染められる。石川県金沢市である。また、制度的には、加賀染振興協会に登録された作家の作品が加賀友禅である。
加賀友禅は、前項「友禅染」で解説した宮崎友禅斎が考案した染色法で染められている。宮崎友禅斎は能登の生まれと言われているが、加賀で染物を習い、上洛して友禅染を考案したと言われている。それが再度加賀に伝えられたのか、元々加賀の染物がそれらしいものだったのかは分からない。どちらにしても京都で染められる友禅と加賀で染められる友禅の技法は同じである。
加賀で染められる「加賀友禅」に対して京都で染められる友禅を「京友禅」と呼んでいる。技法が同じで産地の違いを表しているだけではなく両者には明らかな違いがある。
3~40年前には加賀友禅が大変流行していた。高級な染物として留袖から訪問着、振袖が多数出回っていた。当時京都でも加賀友禅を模して染められた着物も多数出回り、京都で染められた加賀風の着物を「京加賀」と呼んでいたが、本場の加賀友禅よりも価格が安く良く売れていた。
「京友禅」と「加賀友禅」は技法が同じでも全く違う。一目で「これは京物、これは加賀」と分かるほど違う。何が違うのかを解説します。
下絵を描き、糸目を引き、色を挿して糊伏せをする。地を染めて蒸して糊を落とす。と言う工程はどちらも同じである。京友禅は(必ずとは限らないが)、金銀箔を置いたり刺繍を施したりする。豪華さを増す為に染以外の技法も取り入れている。
しかし、加賀友禅は箔や刺繍は用いずに染だけで仕上げる。その為、京友禅とは違った、柔らかく上品な味わいがある。
何故加賀友禅は箔や刺繍を使わないのか。金沢は金箔文化の盛んな処である。加賀友禅に金箔を使用しても良さそうなものであるが、加賀友禅は昔から伝統的に箔や刺繍は使わなかった、と言う事なのだろう。
ただし、私が教えられた加賀友禅の特徴から次のように事が言えるかもしれない。
私が40年前に教えられたのは、次のような事である。
加賀友禅は全て作家物である。作家物とは、一人で全てを制作すると言う意味である。加賀友禅には全て落款が押してある。その落款は、加賀染振興協会に登録されており、落款を見ればその作品が誰の物かが分かる。逆に言えば、登録された落款が押されていなければ加賀友禅とは言えない。
さて、一人で作品を制作するには、図案を考案し、下絵を描き、糸目を引く。色を挿し、糊伏せして地色を染め、蒸して糊を落として整理する。そう言った工程を一人で行わなければならない。蒸しや糊落とし、整理は外注業者するかもしれないが、作品の中枢である図案や下絵、糸目、色差しは作家自身で行う。そのほぼ全工程を作家自身で行うので、その責任を明確にするために落款を押すのだ、と教えられた。
つづく
