全日本きもの研究会 ゆうきくんの言いたい放題
Ⅶ-96 きものの知識「十日町友禅」その3
越後川口ICから十日町市内までは川沿いの田園地帯である。伺ったのは四月だったが、田圃にはまだ雪が残っている。当時平年は五月の連休頃まで雪が残っていると言う。現在(令和7年)は地球温暖化が進んだせいか五月連休までは雪は残らないと言う。
市内が近づくと、住居が増えてくるが、新しい家は皆下駄ばき住宅だった。住宅の土台が高く玄関は二階位の高さがある。豪雪に備えた造りだと言う。下駄の部分の一階は車庫に使ったり倉庫に使ったりしている。私が尋ねた問屋の専務の家では、一階でシイタケを栽培していた。雪国の知恵であろう。
当時十日町市内はまだ活気があった。問屋さんの案内で何軒かの染屋さんを廻った。
その当時私は既に十日町の染屋は相当数把握していた。どの染屋がどのような商品を創っているかと言う事を。
最初に行ったのはS織物と言う会社だった。元々十日町は織物の町である。昔からの多くの織屋が染物に転向し染屋になっている。しかし、染屋に転向した会社でも、社名は昔のまま「〇〇織物株式会社」と言う社名が多い。
十日町の染物は、やはり京友禅や加賀友禅とは違っている。その中でS織物の友禅は京友禅や加賀友禅に近い。以前からS織物の染物に私は注目していた。
S織物は、京都の染屋と変わらない様な立派な鉄筋の建物だった。入ると係員が出て来た。
「御社の染物は十日町では一番だと私は思います。」
と言うと、愛想よく笑って応対してくれた。
商品を見せてもらったが、思った通りの染である。しかし、やはり京友禅や加賀友禅とは違う。
次に伺ったのは、小さな工房で、一人で染めている染屋だった。草木染の染料を使っていると言う。独特の色合いで手描きで丁寧に染めている。価格を聞けば相当高価である。加賀友禅にも劣らない価格だった。
そして次に辻が花染めで有名なT社を伺った。木造の大きな建物で商品も豊富にそろえられていた。建物の外には広い日本庭園があった。消費者も招いて商いをしているようだった。
また、絞り染めも手掛けているA織物も伺った。とてもきれいな建物で、売り場には商品が山積みされている。
一通り十日町の染屋を廻った。どこも活気があった。しかし、どうも京都や金沢とは違った雰囲気であった。そして、気が付いたことは染物の色が違う事である。京友禅と加賀友禅は使う色が微妙に違う。同じように十日町の染物は両者とはまた違った色を使っているのである。
加賀友禅は加賀五彩と呼ばれる色が使われる。ビビットの強い色だけれども調和がとれている。十日町の色は京都や加賀に比べるとやや薄いパステル調の色が使われている。それは十日町の色なのかもしれないが、少々重みに欠けるように思える。
その事を染屋さんに話してみた。
「十日町では京都や加賀と違った色を使っていますね。十日町はこれだけ染色が盛んになって、染色の技術も十分に育っていると思います。いっそ京友禅や加賀友禅をそっくりに真似て染めて見てはいかがでしょうか。もっと十日町ファンができると思うのですが。」
私の目には、どうしても十日町の友禅が京都や加賀よりも劣っている様に見える。京都や加賀が長年築き上げた友禅を真似て創ればまだまだ売れると思った。しかし、十日町には十日町の色を守りたいのかもしれない。
つづく
