明治00年創業 呉服と小物の店 特選呉服 結城屋

全日本きもの研究会 ゆうきくんの言いたい放題

Ⅶ-83 得する街のゼミナール「きものの見分け方」(その28)

ゆうきくんの言いたい放題

 つづれ織は緯糸で柄を創って行きます。強く張った経糸の間に緯糸を杼で緩く通し、経糸を包み込むように緯糸を打ち込んでゆきますので経糸は見えず緯糸だけが見えます。その緯糸を積み上げるようにして柄を創ります。

 「山」の柄を織ろうとする場合、「山」の一番下の右端から左端まで杼を通し緯糸を打ち込みます。杼を折り返して「山」の右端まで戻して緯糸を打ち込みます。この作業を繰り返して三角の「山」の形を創って行きます。

 柄は「山」だけとは限りません。月であったり、鳥が飛んでいたり、松の木があったりします。その一つ一つの色の数だけ緯糸を用意しなければなりません。松の木を織るには数色の色糸が必要でしょう。「山」の柄も麓から頂上まで何色かの色が必要です。

 色糸が多ければ多いだけ織るのに苦労します。職人が色糸を選び、必要な処に通し、また他の色糸で柄を創らなければならないからです。 

 色糸の数、それらの糸で織られる柄が複雑であれば、そのつづれは高価になると言えます。そしてもう一つ、つづれの特徴として次のような事が言えます。

 柄は緯糸で創られますので、杼で緯糸を通す回数が多ければ多いほど織るのに手間が掛かります。柄が横柄であれば杼を通す回数は縦柄よりもずっと少なくなります。横に広がる霞のような柄よりも縦に長い槍ヶ岳のような柄の方が杼の往復は多くなります。

 仮に緯糸の太さが1ミリとすると、縦5ミリの柄を織る場合5回杼を往復させなければなりません。長さは1センチでも5センチでも10センチでも杼を通す手間はほぼ同じです。

 巾10センチ、縦5ミリの柄を織るには杼を5回、10センチ幅で飛ばせばよいのです。しかし、巾5ミリ、縦10センチの柄を織るには、杼を5ミリ幅に100回飛ばさなければなりません。

 見た目にはどちらも5ミリ×10センチの柄なのですが、手間は全く違います。つづれ織は、横柄よりも縦柄の方が手間が掛かるということです。つづれの帯を見て頂くと分かりますが、横に流れた柄が多く目にされると思います。つづれ帯の図案は、つづれ織の特色を加味して描かれているのでしょう。

 さて、つづれ織の織方について話してきました。どのような手間が掛かっているのか、そして、どのような手間が価格に反映されるのかと言う事を。色数や柄の配置、そして横柄か縦柄かが価格に反映されます。

 しかし、ここで気を付けて頂きたいことがあります。既に他の例でも申し上げたことなのですが、「手間イコール価格」と言う方程式は厳然として存在しますが、「高価イコール良い帯」あるいは「高価な程良い帯」と言う方程式は必ずしも存在しないと言う事です。

 今お話ししましたのは、つづれ帯のテクニカルな価値についてです。染物や紬でも同じですが、テクニカルな価値があれば高価になりますが、それと良い帯、目利きに叶う帯はまた別問題です。

 明つづれと呼ばれる非常に細い糸で織るつづれでは、柄も細かい物があります。人の顔も明つづれで描く事もありますが、人の顔を織で表現するのは非常に難しい物です。目鼻立ちを表現するのに染とは違って浮き糸で描くのですから、整った顔には細心の注意が必要です。

 そのようなつづれは色糸の数も多く、柄も複雑です。横柄縦柄など関係なく、下描きに描いた絵画をそのまま織り出して行きます。どんなに精緻な明つづれであっても、目鼻立ちが福笑いのようであっては何の価値もなくなってしまうでしょう。

 つづれ帯の価値評価は、それを買おうとする人、締めようとする人が、「本当に素晴らしいつづれ帯だ」と感じられる事が一番大切です。

つづく

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