全日本きもの研究会 ゆうきくんの言いたい放題
Ⅶ-83 得する街のゼミナール「きものの見分け方」(その30)
テクニカルな染織法の知識を持てば、着物を見分ける事ができるのは事実です。ただし、本当の着物の見分け方はその先にあると考えなくてはなりません。
テクニカルに優れている染織品。精巧な爪綴れでも手描きの友禅でも、最高の技法、最高の技術をもって制作した物でも、それが必ずしも優れた作品とは限りません。
私が京都の問屋にいた時にある帯屋さんが段ボール一箱の帯を持ってきました。中には八寸のすくい帯がいっぱいに入っていました。二十本ほどあったでしょうか。一本一本柄は違いますが、同じすくいの帯でした。太鼓に花が一輪織られていました。手織りのすくい帯で価格も高かったのだろうと思います。
しかしその帯屋さんは、「特価品なので何とか売って欲しい」と持ち込んだものでした。売れずに残っていたので処分の為に安価で売って欲しいとの事でした。
問屋の販売員を前にして持ってきた帯を一本一本流して柄を見せてくれました。間違いなく手織りのすくいですので織は悪くありません。しかし、流された帯を見て私の先輩たちは、「う~ん。」と言う表情で見ていました。
帯屋さんは、通常の半額程度で売って欲しかったようなのですが、先輩たちは難しい顔をしていました。とりあえず持ってきた帯を箱ごと置いて帯屋さんは帰りました。
私は先輩に、
「結城君、この帯売れると思うか。」
と聞かれました。私はその時はまだ業界に入ったばかりで良く分かりません。先輩が流された帯を折って太鼓を創り、
「どうだ。」
と聞きました。
その帯の柄は花が一輪太鼓の真ん中に織られていました。そして、胴の柄は太鼓柄と全く同じ花が真ん中に織られていました。そうして見ると、私も「う~ん」となってしまいます。帯の柄として配置がどうもしっくりこないのです。帯を選ぶお客様の立場に立てば、もっと他の帯を選びそうです。
帯の良さはその技術的な物もありますが、絵柄の構図もあります。全く同じ構図であっても、制作者個人の個性による出来もあります。テクニカルな要素ばかりで判断すると、自分が本当に欲しい柄を見逃してしまうかもしれませんし、柄にばかり目が行くと、インクジェットの染物を高値掴みさせられるかもしれません。
本当の着物の見分け方は、多くの着物を見て触れて、知識を得て感覚的に見定めができるようになる事でしょう。
それで思い出しますのは、帯地の処で揚げた帯問屋さんの言葉です。
京都にいた時分、西陣の帯問屋さんに、
「手織りの帯と言うのは見て分かるものですか?」
と聞いたことがありました。
「そら、見たり触れたりしたら分かりまっせ。」
と答えていましたが、
「それはどう違うのですか? どこが違うのですか?」
と問うと、
「そりゃ~、ふわっとして手触りが違いますよ。」
この「ふわっとして手触りが違いますよ。」の言葉が自然に出るように成れば、本当に着物を見分けられると言う事だと思います。
私もまだまだ至りませんが、染織品と感覚で会話ができるようになりたいものです。