全日本きもの研究会 ゆうきくんの言いたい放題
Ⅶ-84 夏物(その7)
ツヅの書き残した着物の季節感をいくつかに分けて考えると当時の習慣が見えて来る。
「身分の高い人か同輩の者かを訪問する場合には、常にその季節に用いられる衣類を着て行く」の部分を解析して見ると、
「身分の高い人か同輩の者かを訪問する場合」と言うのは晴、
「正式に誰かの家を訪問する」と言った即ちフォーマルを差している。以下は、その晴れの場での習慣である。
「常にその季節に用いられる衣類を着て行く」は正に日本の着物の季節感である。
「その季節にはその季節の着物を着る。冬は袷を、春は単衣を、夏は薄物を」と言った現代でも行われている着物の季節に関する決まりである。
さて、次の行が気になる所である。
「たとえ他の衣類の上に着るにしても、良いみだしであり、礼儀にかなうとされる。」と言うのはどういう意味だろう。
「他の衣類」とは何か。ここではその季節にはその季節の着物を着ると先に書いてある。従って「他の衣類」とは「その季節の物ではない衣類」を差している。
さらに、「それを下に着ては使い方が誤っている。」とも書いている。これは、
「季節の着物を季節の物ではない着物の下に着るのは間違っている。」と言う意味である。
この内容を分かり易く言えば、
「正式な着物を着る時には、上に着る着物は、その季節の着物を着る。下に着る着物が季節に合っていなくて季節に合った着物を上に着なければならない。逆に下に季節の着物を着て、上に季節に合わない着物を着るのは礼儀に反している。」
もっと具体的に言えば、
「夏の礼装は一番上に着る羽織は夏物、すなわち絽や紗の羽織を着なければならない。もしも長着が単衣であっても羽織は夏物を着なければならない。絽や紗の長着を着ても上に羽織る物が単衣や袷であってはならない。単衣の時期であれば、長着が袷であっても羽織は単衣を着るのが礼儀に叶っている。」
このツヅの残した行は非常に意味深である。
「上に着るものは季節に合ったものを着なければならない」と言うしきたりだけではなく、当時の日本では、下の着物は季節外れの物を着る場合があった。それも相当に頻度が多かったことが想像される。
「7月1日から夏物を着る」と言う現代のしきたりでは、夏物の時期には中から外まで全て夏物。同じように単衣の時期には全て単衣、袷の時期には全て袷、と捉えられているふしがある。
しかし、当時のしきたりは「その季節に上に着るものはその季節の着物」である。夏場に中から外まで全て夏物を着る事はもちろん正しいが、長着が単衣であっても羽織が夏物であれば礼儀に叶っているのである。
つづく