明治00年創業 呉服と小物の店 特選呉服 結城屋

全日本きもの研究会 ゆうきくんの言いたい放題

Ⅶ-91 現代白生地事情(その3)

ゆうきくんの言いたい放題

 日本産と言えば、「日本の絹」証紙について聞いてみた。

 以前、何回か「日本の絹」証紙について触れた(きものQ&A「501.日本の絹のマークについて」等)。着物に限らず、商品に添付される証紙は消費者にとって商品の良し悪しを判断する材料となる。公的に制定された品質等の表示もあるが、極私的とも思える証紙も存在する。海外品が多く入ってきている呉服業界にあって「日本」の二文字は消費者心理に大きく影響を与えていると思われる。

 さて、「日本の絹」証紙の話を切り出すと、織屋さんは「その話ですか」と言うような表情を浮かべた。何を聞かれるのかは既に分かっていたのだろう。

「日本の絹」と言えば「日本製の絹」と連想される。しかし、絹そのもの(蚕や絹糸)はもはや日本では作られていない。ほとんどが中国製であることは今しがた確認した所である。では、「日本の絹」の何が「日本」なのか。

 縮緬地あるいは羽二重地が織られるまでには実に多くの工程がある。

➀ 養蚕 蚕を作る工程である。産み付けられた卵を孵化して幼虫を育て上げ繭を作らせる。

➁ 製糸 繭から繊維を引き出して糸を作る。一本では細いので、何本かの繊維を束ねて糸にする。縮緬の場合は撚糸と言う大事な工程を経て作られる。

➂ 製織 繭から引いた繊維で作った糸を織って布にする工程。糸の撚糸の種類や紋紙によって様々な絹布が織られる。一越縮緬、鶉縮緬、綸子等。

➃ 精錬 蚕糸にはセリシンと言う糊が付いているのでこれを落とす工程。セリシンを除く事によって絹本来(フィブロン)の輝きと柔らかさが生み出される。

 大まかに言って、このような四つの工程を経て絹布、縮緬地が出来上がる。

 ここで「➀ 養蚕」「➁ 製糸」は大半が中国で行われている。日本での養蚕は工業的には無くなっており、製糸も日本ではほとんどなくなっている。中国で作られた繭を輸入して日本で糸にする(製糸)と言うのは聞いたことがない。あったとしても極々少量だろうと思う。「養蚕」「製糸」いずれも「日本の絹」の「日本」には値しない。「日本の絹」の意味するところは「日本で織った絹織物です」即ち「製織日本」を意味している。

 昔(30~40年前)はこの四つの工程は諸外国の役割が複雑に絡んでいた。

 当時は、中国が門戸を開放した事もあり、呉服業界全体が云わばグローバル化していた。染物の端には「韓国製」「シンガポール精錬」「香港製織」などのハンコが押されていた。主にアジア諸国である。日本伝統の呉服業界にあって当時は少し後ろめたさがあったのだろうか。そう言ったハンコの上に品質表示のシールや染屋のシールなどを貼って隠している物もあった。

 当時ハンコに登場する国名は、韓国、香港、シンガポール、台湾、タイなどのアジア諸国であり、中国が遅れて入ってきたようだった。また、絹の輸入はブラジルが中国よりも多かった。

 それらの国々が四つの工程をそれぞれが担っていたのか、中には養蚕から精錬まで一貫して縮緬の生産を担っていた工場はあったのか等詳しい事は分からないが、それらの国々が関わっていたことは事実である。

つづく

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