全日本きもの研究会 ゆうきくんの言いたい放題
Ⅶ-97 きものの知識「型糸目友禅」
「型糸目友禅」と言う言葉があるかどうか分からない。「そんな言葉はないよ。」とある筋から言われそうだけれども、着物の知識として、友禅の一範疇であることをはっきりと理解して頂きたいと言う気持ちから「型糸目友禅」と題してお話しします。
京友禅や加賀友禅は宮崎友禅斎の考案した友禅染の手法で染められて来た。下絵を描いた輪郭に沿って糊で糸目を置く。その糸目で囲われた模様に染料を挿して染色する。糸目は、染料同士が混じらないようにするための防染である。そして、それらは人の手によって行われた。
友禅に限らず、昔から伝統的に創られてきた工芸品は手間が掛かる。「手間が掛かる」と言う感覚は現代人の感覚で、昔は「手間を掛ける」しか作る術がなかったのである。
陶芸では、ろくろや水力を使った臼など、工夫された道具は有ったが、機械化と言われるものではなく便利な道具の域を出なかった。
友禅染はどの工程も非常に手間が掛かるが、とりわけ糸目の工程は職人の技術と根気を要する。
職人は下絵が描かれた白生地に下絵通りに糊を置いて行く。糊の入った紙の筒を握りながら、先端の口金から均等に糊を絞り出す。絞り出す量に多少があれば糸目はヒョゴヒョゴになってしまう。細く一様な線を真っ直ぐに引くには神経を集中させなくてはならない。
総柄の訪問着ともなると、下絵の描かれた白生地を見ただけで普通の人であれば、気の遠くなる手仕事を連想してしまうに違いない。
それでも糸目職人はそれをこなしてきた。私も京都にいる時分、糸目を置く職人の姿は何度も見て来たが、その仕事ぶりは頭の下がる思いだった。
さて、欧米では18世紀半ば、日本では19世紀明治時代に産業革命が起こり、あらゆる生産現場で機械化が導入され、より多くの製品がより安価に生産されるようになった。
日本の染織の世界でも例外ではなく明治初期には西陣でジャカード織機を導入し文字通り機械化している。
友禅の世界では機械化とは行かないが、より簡便に染める方法は昔から考えられてきた。型を使った友禅もその一つである。型を使い、染料を混ぜた糊を使って染めて行く型友禅は以前から行われていた。しかし、型を使って糸目を入れる方法は最近(ここ4~50年前)になって考案され普及している。
型友禅の様な面的な型染は昔からあった。点で構成する江戸小紋も昔からあり、万筋小紋は線であったが直線である。曲線を型で染めるのは難しく、まして糸目は細く一様な太さが生命である。昔の手仕事で糸目の型を作り染めるのは難しかっただろう。
つづく
