全日本きもの研究会 ゆうきくんの言いたい放題
Ⅰ-ⅲ 買取と浮き貸し (その2)
買い取った商品が小売屋の在庫と成り、それが経営を左右する一つの大きな要因となることは既に述べた。
私の店では買取を前提としている。お客様の欲する着物が在庫にない場合は問屋から商品を「浮き貸し」してもらうことはあるが、原則的には買い取った在庫で商売をしている。
当店が何故買い取りに拘るのかと言うと、第一には価格である。前述した通り同じ商品でも「浮き貸し」では高くなる。当たり前のマージンであっても、買取りの場合販売価格が10万円のものを借りて商売をすれば15万円で販売しなければならなくなる。
「より安い価格で消費者に」という商売の原則からすれば買取の方が有利である。他店で10万円で売っている着物を15万円で売るわけには行かない。しかし、最近は平気で借りた商品を15万円で売る小売屋が増えている。
買取に固執するもう一つの理由は商品の品質である。
30年前に比べて呉服業界の規模は十分の一になってしまった。染屋織屋も廃業が相次ぎ、問屋もその数は激減している。昔は欲しい商品がすぐに使ったが、今日商品を探すのに苦労する。
昔は問屋に要望を伝えれば複数の問屋がそれらしい商品を送ってきて容易に商品が手に入った。しかし、今は問屋に探してもらい送ってもらうけれども良い商品にはめぐり合わない。良い商品を安く手に入れるには自ら京都や産地に赴いて沢山の商品から選び仕入れるしかなくなっている。
私が京都で仕入れるときには、加賀友禅であれば100枚~200枚くらいの商品から良いものを数枚選び出し問屋とのソロバンで買い取るものを選定するのだけれども、おめがねに適うのはあっても1~2枚である。
そのようにして商品の仕入れをしているが、仕入れは真剣勝負そのものである。上述したように仕入れのミスは不良在庫につながり、店の経営を圧迫してしまう。
さて、買取をする呉服屋が減り、借り手ばかりいる呉服屋が増えるとどうなるのか。
問屋は商品を揃えていても小売屋は買ってくれない。問屋は貸し出しばかりになってしまい効率が悪くなる。小売屋に50反送ってやっと1反売れる、というのはまだ良いほうで、100反貸したけれども1反も売れない、ということもある。
流通の構造としておかしな話であるが、問題は品質の低下を招いている事にある。
私が商品を仕入れるときには真剣勝負である。より安くより良い商品を買い求め、それが売れなければ何もならない。柄、品質、価格共に売れる自信のある商品をリスクを負って仕入れてくる。もちろん売れそうもない商品は買わない。
もしも、全ての小売屋が買取をしたとすると、問屋では売れない商品はメーカーから仕入れられない。売れる商品を開発してメーカーに発注することになる。そこで問屋もリスクを張って仕入れ、物創りをする。
メーカーはメーカーで問屋が仕入れてくれる物を創らなければならないし、小売の現場でどのような商品が売れるのか知らなければならない。
小売屋、問屋、メーカーいずれも商品の目利きには真剣にならざるを得ない。
しかし、浮き貸しばかりが横行する中では良い商品を創ろうとする気概は削がれてしまうし、どのような物を市場で求めているのかさえも分からなくなってしまうのである。
浮き貸しという業界にとってなくてはならない仕組みは度が過ぎて、価格を押し上げ、品質の低下を招いていることは否めない。
次回は上代設定について考えます。