全日本きもの研究会 ゆうきくんの言いたい放題
Ⅵ-ⅰ「中華そば屋」のような呉服屋(その2)
この中華そば屋は何を売っているのだろう。そして、食べに来る人は何を食べに来るのだろう。「食べたいものを売る」「欲しいものを売る」、それは需要と供給の原点であり商売の原点である。その中華そばを「あっさりし過ぎていやだ。」とか、「もっと味の濃い方が好きだ。」と言う人もいるだろう。しかし、「この店の中華そばが美味しい。」と言う人が間違いなくいる事は確かだし、それに応えて商売をしている。
この店の主人は、「今風のラーメンを・・・。」とは考えていない。自分の作る昔からの中華そばを食べに来てくれる人がいる限り店を続け、中華そばを出し続けるだろう。大げさな宣伝もせずに、マスコミにも縁がない。客を呼ぶ手立ては、中華そばの味一つである。客が評価すれば客が集まり、客が「まずい」と思えば客の足は遠のく。
極当たり前のことだが、現代の商売とりわけ呉服業界が忘れているものがそこにある。
呉服屋とは本来どのような商売だったのだろうか。洋服がまだ普及しなかった当時は、普段着であれ晴れ着であれ着る物全て呉服屋で売っていた。もっとも当時は普段着を売る太物屋と晴れ着を扱う呉服屋は区別されていたが、今の洋服屋も同じである。高級ブティックとオバサンの普段の洋服を扱う洋服店があるようなものである。扱う商品は違っていても、反物を売り、誂え仕立てをして納める。また、仕立て替えや加工にも応じていた。
お客様の着物に関するあらゆる要望に応えていたのが呉服屋である。どんな高級な着物でも、ちょっとした普段着でもお客様の些細な要望に応えるのが呉服屋である。しかし、現代の呉服屋はどれほどお客様の要望に応えているのだろうか。
最近、仕立て替えを頼まれることが多くなった。初めてのお客様が風呂敷包みを抱えて来店される。そして、「仕立て替えをお願いしたいのですが。」と、恐る恐る聞いてくる。
「はい、お仕立て替えですね。承ります。」と言うと、「他で買ったものなのですがやっていただけますか。」とまた、恐る恐る聞いてくる。
私の店では、どこで誂えた着物でも、どんなに古い着物でも承っている。中には古くて仕立て替えできない場合もあるし、尺が短かったり反物幅が狭かったりで寸法が採れない場合もあるが、その時は十分に説明してどのようにするか、お客様に判断してもらっている。
「誂えた店でしか仕立て替えしてもらえない。」と思っているのは、お客様の思い込みなのか、それともそういう呉服屋が多いからかどうかは分からないが、少なくとも着物のメンテナンスをどこに頼めばよいか困っている人は多いように思える。
仕立て替えばかりではなく、染み抜きや丸洗いなども同じである。昔はそのような事で困ることはなかっただろう。
最近は東京や九州からも加工の注文を頂戴するようになった。多いのは、母親のきものを仕立て返して娘の嫁入り道具にする為で、5~6枚まとめて送ってくる事もある。幸い今はインターネットという通信手段ががあるので、遠隔地であっても寸法等詳細について簡単に打ち合わせができる。
つづく