明治00年創業 呉服と小物の店 特選呉服 結城屋

全日本きもの研究会 ゆうきくんの言いたい放題

Ⅶ-ⅸ 染帯の怪(塩瀬帯の消滅)

ゆうきくんの言いたい放題

 前節でも書いたように、今呉服業界では、良い商品を入手するのが難しくなっている。昔から商品は問屋から仕入れたものだが、問屋には商品がない。今の問屋の多くは、必要な時だけ染屋織屋(メーカー)から借りてきて商品を並べている。問屋を周っても欲しい商品はなかなか無いし、注文してメーカーから取ってもらっても良い商品にはお目に掛からない。そういう訳で、最近は染屋織屋(メーカー)まで足を延ばして仕入れをしている。

 メーカーで創る商品は限られているので、一軒のメーカーで色々な商品を仕入れることはできないので、何軒も染屋織屋を周って仕入れをすることになる。大変手間がかかるけれども、商売には替えられない。産地に出向いて商品を仕入れることが多くなった。

 先日も私がひいきにしている染屋に足を延ばして仕入れに行ってきた。

 その染屋は品質を落とさずに頑なに良い染物を創っている。振袖から染帯まであり、価格も常識的である。振袖も欲しいと思ったけれども生憎振袖は出払って2~3枚しかなかった。代わりに染帯があったので見せてもらった。

「染帯」と言っても、どんな帯なのかは意外と分かりづらいかもしれない。「染帯」とは文字通り「染めた帯」である。「染めた帯」でない帯は「織った帯」である。ここで言う「染め」とは「後染」、すなわち白生地に柄を染めたものである。「織った」とは、糸の段階で色を染めて織ったものを指している。(「きもの講座4.染と織について」参照)

 さて、「染帯」と言っても種類は様々である。帯の形式から言えば、九寸名古屋帯が圧倒的に多い。八寸名古屋帯もいくらかあるし袋帯も稀に創られている。

 その染屋で創られているのも九寸名古屋帯である。しかし、同じ九寸名古屋帯でも素材によってまた色々な種類がある。

 九寸名古屋帯に使われる素材としては、紬、縮緬、塩瀬などがある。それぞれ用途は違っている。紬染帯は紬の白生地に柄を染めたものでカジュアルである。縮緬の染帯はシボがあるために塩瀬の方がフォーマルとされている。

 塩瀬の帯は、デュークエイセスの「女一人」と言う歌の歌詞に
「結城に塩瀬の素描の帯が・・・」
と詠われているように染帯の代表格でもある。「塩瀬」と言うのは「塩瀬羽二重」と言う生地を指す言葉で、塩瀬は染帯や男性の紋付に用いられる生地である。しかし、業界で「塩瀬」と言えば十中八九「塩瀬の染帯」を意味している。それ程塩瀬の染帯は染帯の中でも中核を成している。

 さて、その染屋で染帯を見せてもらった。5~60本位あっただろうか。丸巻きの染帯を畳の上に流して行く。しかし、その9割が紬の染帯だった。

 私は塩瀬の染帯が欲しかった。塩瀬は紬の着物にも合わせられるし、小紋や色無地にも合わせられる。色無地を着る際には、織帯と塩瀬を使いこなせば幅広く着用することができる。以前は京都でも沢山染められていたが最近はあまり見なくなった。安価な塩瀬はとても重宝したが、最近見かけるのは高価な工芸帯が多い。その染屋で染められていた塩瀬の染帯がある事を期待してきたが期待外れに終わった。

 私の店に限って言えば、染帯の需要の中では塩瀬が多い。次に縮緬である。そして紬の染帯は締める着物が限定される為に塩瀬や縮緬に比べてはるかに少ない。紬の染帯は色無地には締めないし、小紋も限定され主に紬に限られてしまう。染屋とて同じはずである。少なくとも塩瀬は紬と同数あるいはそれ以上染めても良さそうである。主人に聞いてみると、塩瀬は染めていないという。

 私は染屋の主人に聞いた。
「何故、塩瀬は染めないのですか。塩瀬の方が売れるでしょう。」
 その問いへの主人の答えは驚くべきものだった。
つづく

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