明治00年創業 呉服と小物の店 特選呉服 結城屋

全日本きもの研究会 ゆうきくんの言いたい放題

Ⅶ-14 呉服専門店の役割

ゆうきくんの言いたい放題

「はれのひ」は振袖業界の振袖屋である。呉服の中で振袖に特化して販売、レンタルをして商いをしている。呉服屋は呉服一般全てを扱う専門店である。この事件を通して、呉服専門店とは何か、呉服専門店の役割は何かを考えさせられる。

先日、休みの日に女房と郊外のショッピングセンターに行って来た。ショッピングセンターには色々な店がある。衣料品所謂ブティックから食料品、雑貨、楽器店等。もちろん書店も入っている。

女房が洋服を見ている間、向かいにあった書店に入った。実は探している本があった。その本を探して書棚を見て回った。探している本は岩波文庫。通常の書店であれば各出版社の文庫本がひしめき合って並んでいる。〇〇文庫、〇〇新書の並ぶ書棚を見て回ったが、岩波文庫の書棚がない。店員さんに聞いてみた。
「岩波文庫はどこですか?」
しかし、応えは、
「岩波文庫は扱っておりません。」
街なかの書店では小さい書棚であっても岩波文庫はありそうなものだけれども、書棚はなく一冊も置いていない。その書店は文庫本を並べるのに十分な広さがあった。

仕方がないので女房の用事が終わるまで店内を見て回った。大きく書棚を占めているのはマンガ本だった。そして実用本や娯楽本が書棚を埋めていた。
「成る程、この書店の客層、売れ筋本に合わせて本を並べているんだ。」
そう思うと納得できる。ショッピングセンターの書店で哲学や歴史、思想、古典の本は売れ筋ではないのだろう。

後日、別のショッピングセンターへ行った時も同じだった。岩波文庫はなく、品揃えも前のショッピングセンターと同じだった。

「売れる商品を品ぞろえして、売れる物を売る。」これは商売の鉄則である。ショッピングセンターに出店する書店は、十分な経験とマーケティングが行われているのだろう。ショッピングセンター出店は過酷な条件が付される。ぎりぎりまでに売り上げを伸ばし、利益を確保しなければならない。その為に品揃えは売れ筋に特化するのは自然の流れである。

しかし、どうも私には合点が行かない。以前、街の本屋さんから聞いた話である。昔、本屋さんは沢山あった。私の店の周りには本屋が六軒あった。しかし、今は淘汰され、残っているのは一番大きな本屋さんが一軒だけである。

そして、その本屋さんの話では、年々売上が下がっていると言う。様々な原因が考えられるが、以前コンビニエンスストアーで盛んに本が売られていた。新聞、週刊誌はもちろん、ベストセラーの本が並べられていたことがあった。

芥川賞や直木賞を受賞した本は本屋の店頭に高く平積みにされ飛ぶように売れる。コンビニでは、そのような売れると分かっている本を種類は少ないが並べていた。芥川賞や直木賞の本と言えども全国で売れる数は決まっている。コンビニで売られた分、在来の本屋の売れ数は減少する。一通り売れてしまうと売れなくなるのでコンビニではもうその本は売り場から姿を消す。

そこで本屋さんの愚痴とも文句とも言える言葉が登場する。

専門の本屋では、売れ行きが落ちた本も置かなくてはならない。普通の人が誰も目に留めないような専門書も並べなくてはならない。大きな本屋に行けば棚がずらりと並び、図書館のように項目ごとに本が並べられている。

何千冊、何万冊並べられているのか分からないが、売り上げの大きな部分を占めるのが話題の本、ベストセラーである。専門書もベストセラーも販売しながら売上を確保している。しかし、売り上げの大きな部分、すなわちその時々の売れ筋の本をコンビニが扱う為に売り上げが減っているというのだ。

反対の見方をすれば、コンビニは実に巧い商売をしたものだ。本屋の一番美味しいところだけを商売にして利益を上げている。

本屋曰く、
「我々は専門書や極一部の人達が読む本も揃えて、万人の為の商売をしているのだけれども、美味しいところだけ持って行かれては・・・・。」
そのコンビニも最近は本の販売が急速に萎んでいると言う。インターネット販売に押されて、それほど美味しい商売ではなくなったと言う事だろうか。

つづく

 

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