全日本きもの研究会 ゆうきくんの言いたい放題
Ⅶ-22 絹の動向(その5)
これまでの経緯を見てみると、日本の絹は需要の減と価格の高騰によって生産数量が減少した。そこに価格的に安い海外の絹が入りそのシェアを広げてきた。それによって益々日本の絹は減少していった。
絹全体の供給は、安定が保たれている様に見える。中国の絹が八割を占め、日本の需要に応えて安い絹を供給してきた。
しかし、ここに来てそれが揺らいできている。ここ2~3年前から「絹が上がります」の声が聞こえてきている。中国の絹が上がってきているのである。
中国の絹の生産量は頭打ちになってきてはいるが、世界の7~⒏割を生産していることに変わりはない。生産量の不足による値上がりではなく、中国国内事情による値上がりが起きている。
一つには、中国における人件費の高騰である。
中国に進出した工場の従業員の人件費高騰の為、工場を日本に移す(戻す)と言ったニュースも聞かれる。今回入手した資料によると、1997年と比較して2012年の年平均賃金は、国有企業で7.24倍、集団企業で7.48倍、その他の企業で5.1倍である。2012年から今年2018年までは更に高騰しているだろう。賃金の高騰が絹の価格を押し上げている。
もう一つは中国国内における需要の多様化である。
改革開放の初期には外貨を稼ぐためにせっせと海外に絹を輸出していた。輸出するために絹を生産していたのだろう。しかし、今日輸出先も多様化してインド、ルーマニア、ベトナム、イタリア、韓国など中国にとっては売り先に困らない、いわば売り手市場になってきている。
そして、中国国内では生活の向上と共に国内での絹の需要が増えているらしい。白生地屋さんの話だと、中国の生産者は生糸の生産から真綿の生産に切り替えていると言う。中国国内での真綿の需要が増えたために、生糸で日本に輸出するよりも国内に真綿で販売する方が利があると言う事らしい。そのおかげで、今年の生糸の価格は昨年の1.3倍になっている。
輸入品の値上がりは生糸に限らない。
珈琲が値上がりしている。現地の人達も高級品を飲むようになったのが背景にある。お香が値上がりしている。現地の人が高価な香木を消費するようになったのが背景にある。
日本はこれまで消費国としてそれらの原材料を生産国から輸入していたが、これからは同じ消費国目線での取引を余儀なくされる。
世界の生糸の主導権を握った中国が日本に対して、これまでのような安定供給を続けるかどうかは分からない。
かつて中国が政策的にレアメタルの輸出を絞り、一時日本の半導体業界を震撼させたことがあった。その時日本をはじめ世界の技術先進国では、技術力で他の素材への代替利用を進め乗り越え、かえって中国が打撃を被った。しかし、生糸の場合はそうはいかないだろう。化学繊維が絹糸に取って代わることはないだろうから。
生糸の将来を、あれこれ考えても結局珈琲や香木と同じように、なるようにしかならないのだろう。しかし、それにつけても最高の品質を誇る日本の絹が、経済原則に押しつぶされ消えてしまうのはやるせないと思うのは私だけだろうか。