全日本きもの研究会 ゆうきくんの言いたい放題
ⅴ-ⅲ 良いきものの証
きものを着る人は誰でも良いきものを求めたいと思っている。きものに限らず買い物をする人はより良い商品を求めている。
牛乳を買う時、より良い鮮度のものを求めるために棚の奥にある牛乳を引っぱり出したりするのは私だけではなかろう。牛乳パックには賞味期限が刻印されている。牛乳だけではなく食品一般、消費者はより賞味期限の長い商品を選ぼうとする。
それが為に賞味期限の迫った商品が廃棄される、と言った食糧事情にとっては悲劇が生まれているが、消費者がより良い商品を求めることは悪い事ではない。
では、きものを選ぶ際、消費者は一体何を頼りにより良いきものを選ぼうとしているのだろうか。牛乳パックの賞味期限の刻印を確かめる如く、きものの何をもってその判断材料としているのだろうか。
実際にきものを選ぶ時には、様々な観点からきものの良し悪しを判断する。同じ牛乳であれば賞味期限で選ぶといった単純な選択にはならない。私も長い事きものを商ってきた。問屋の修行時代にはよその商売も数多く見てきた。その中で、消費者がどのような事を判断材料にしているのか分かっているつもりである。以下、その一つ一つを解析してみたい。
①価格
価格を良いきものの判断材料としている人は多いだろう。「価格の高い商品は良い商品」と言う判断である。
確かにこの道理は一脈ある。どんな商品でも高い物は良い物、と言うのが一般的である。良い商品は高価な材料を使い、高度の技術によって創られている。従って価格は高価になる。しかし、この道理が消費者の目を曇らせる一因ともなっていることを忘れてはならない。
きものの価格形成については繰り返し繰り返し述べてきた。仕入れの仕方、販売の仕方によって小売り価格は数倍の差が出るのである。A呉服店で10万円のきものが、Bでは30万円という事は珍しくない。全く同じ商品で30万円の方が良い商品ということはない。しかし、他よりも高額で買ったきものを、それだけの価値があると信じ切っている消費者もいる。
かつてバブルの頃、アパレルの関係者が次のような事を言っていた。
「今、安い物は売れませんよ。毛皮なんか安く(値段を)付けると売れないんです。高く付けると飛ぶように売れるんです。」
バブルの時代、「高ければ良い物」の信仰が絶頂だったのかもしれない。しかし、消費者の心理を良く突いている。バブルが去った今日、他の多くの業界では「商品価格が高ければ消費者が良い物と判断して購入する。」と言うような方程式はもう通じてはいないだろう。しかし、呉服業界ではまだまだ通用しているように思える。
「良い商品は高価である。」これは、業界の如何を問わず真である。しかし、「高価なものは良い商品である。」とは言えない。数学的に言えば、必要条件十分条件の関係である。
きものを購入するにあたっては、「高価に売られているきものは、必ずしも良いきものではない場合もある。」という事を頭に入れておかなければならない。