全日本きもの研究会 ゆうきくんの言いたい放題
ⅴ-ⅲ 良いきものの証(その2)
②箱入れ、桐箱
呉服に限らず、日本の文化には(日本だけではないかもしれないが)、大切なものは箱に入れる、特に大切なものは桐箱に入れる、と言う慣習がある。
お菓子は袋にバラ詰めするよりも紙箱に入れた方が体裁が良く、より高級感がある。茶の湯に使う茶碗は高級なものは桐箱入りである。より高級(高額)な茶碗は四方桟の桐箱に、そこまでではない茶碗は二方桟の桐箱に入れられる。それより安い物は紙箱に入れられたりもする。
四方桟の桐箱を見ただけで、「高価な名碗が入っているのだろう。」と想像してしまう。
さて、呉服の場合、袋帯は箱に入っている場合がある。私の店でも袋帯を仕入れるとボール箱に入って来る場合と透明のポリプロピレン(OPP)の袋に入ってくる場合がある。
どういう帯がボール箱に入ってくるのかと言うと、高額なものが多い。しかし、織屋によっては、価格に関わらず織屋の名前が入ったボール箱に入れてくる処もある。また、安価な帯でも帯の名前が印刷された立派な桐箱に入ってくる物もある。
しかし、仕入れではなく問屋から帯をたくさん送ってもらった時には高額な帯でもOPPの袋に入ってくる事もある。
「箱入」「桐箱」と言う文化は、物をより大切に保存するといった動機から起こったものと思うが、果たしてそれを逸脱している例が見られる。
以前、お客様同士の会話で次のようなものを聞いたことがある。
「箱に入った帯は良い良い帯なんだって。」
消費者が帯の良し悪しを一目で判断するのは難しい。帯の良し悪しを判断する拠り所の一つが『箱入り』なのだろう。必ずしもその判断は誤りとは言えないが、そうではない。上述したように企画物の袋帯の中には、そう高価でもない袋帯が立派な桐箱に入っていることもある。
帯ばかりではなく次のような話を聞いたことがある。
全国で展示会販売ををする小売屋さんは、立派な桐箱に仕立物を入れて納めると言う。それも肉厚でかまぼこ型の桐箱という。さて、それ程の商品なのかと言えば疑問が残る。受け取るものとすれば、仕立物が桐箱に入れられ納められるのは、高級品ならではのサービスと喜ぶだろう。
しかし、そこに落とし穴がある。きものや帯に限らず、箱入り、桐箱入りの商品はしても高価に見える。中身はどうあれ、とても高級品、高額品に見えるのである。消費者にとって価値の分かり難いきものはその効果抜群である。
桐箱に入ったお菓子が不味ければ、「なんだ、こんな菓子を桐箱に入れるのか。」と思えるけれども、きものの場合は全て美味しく(高価に)思えてしまう。
箱入り、桐箱入りの価値を正しく評価すれば、
「良いきものは、箱入り、桐箱入りの場合がある。」
「箱入り、桐箱入りのきものは、必ずしも良い物とは限らない。」
そして、最後に
「箱入り、桐箱入りの着物は消費者の目を曇らせてしまう場合がある。」
そう考えては如何だろうか。