全日本きもの研究会 ゆうきくんの言いたい放題
Ⅶ-51 日本の職人技のすばらしさ(その2)
ムラになった染物を気にする国民、気にしない国民と言ってしまえばそれまでかもしれないが、日本人は古来より良いモノ創りに励んできた。日本の工芸品を見ると実に緻密で正確なモノ創りがなされてきたことを感じる。
蒔絵や漆器、竹細工から陶磁器に至るまで、日本伝統工芸展に並ぶ作品はそれを如実に感じさせてくれる。
明治時代に日本にやってきたカメラマン、ハーバート・G・ポンティング氏は、その著書「この世の楽園・日本」の中で日本の伝統工芸、青銅製品、刺繍、陶器、象嵌細工、七宝焼、金物、絹のすばらしさを称賛している。彼が日本で入手した象嵌のシガレットケースをスペインで最高の象嵌細工工房と言われるトレドの刀剣製造所に持ち込んだところ、職人たちは、これに匹敵するような技術を持った者はスペインには一人もいないと語ったと言う。
日本人は細部にまでこだわりモノ創りをしてきた。それは世界に冠たるものかもしれない。
染織の世界でも同じである。その材料である絹糸は長年改良に改良を重ね、細く均質な糸を創ってきた。そして、その絹糸から作られる縮緬は「宝石のように」とも表現される全く傷のない製品として創られてきた。ちなみに若干キズのある縮緬の反物は「B反」と呼ばれて流されるが、そのB反ですらどこに傷があるのかわからないような反物である。
以前、丹後の縮緬工場を見学した時の事である。(40年も前の事であるが)何台も並んだ織機が音を立てて縮緬地を織っていた。その間を検査の為に数人の男性が見回っていた。すると突然一台の織機を止めた。何事かと思って見ていると、折角織った生地から横糸を解いている。聞いてみると、途中に難があったので、その所まで解いて織るのだと言う。難は織難であったり、糸にゴミが付いて一緒に織られてしまったりしたもので、それを取り除くために横糸を解いていた。
そこまで気を使って織っても、織った後の検査でB反が出てしまう。それ程検査は厳しく行われていた。
また、やはり私が京都にいた時分、ちょうど中国で様々な呉服の加工がおこなわれ始めた頃だった。私が反物(付下げ)を持って小売屋を訪ねた時、その店のオヤジさんがその反物を見るなり、
「あっ、これは中国やんけ。」
と言われてしまった。
何故一目でその反物が中国で加工したものと分かったのか。それは「蒸し痕」だった。
友禅を定着させるために染めた反物を蒸す工程がある。長い反物を蒸すために何本もの縄を張って反物をそれに掛けて蒸す。しかし、中国では縄ではなく針金を使う(とそのオヤジさんが言っていた)。針金に掛けられた反物は、折ったような針金の跡が横にところどころ入っていた。
「この蒸し痕は取れんだろう。」
そう言われて私は何も言えなかった。当時はまだ業界に入ったばかり。何の知識もなく黙って引き下がるしかなかった。
染織においても日本人は繊細で緻密なモノ創りをしてきた。そして、それを扱う人達もそれを見る目が養われていた。
つづく
来週1月3日は、正月の為お休みいたします