全日本きもの研究会 ゆうきくんの言いたい放題
Ⅶ-61 手拭(その4)
高度な職人技で創られた商品とそうでない商品の間には明確な違い(良さ)がある。それと共に価格も大きな開きがある。機械で染める捺染の手拭と職人技で染められる注染の手拭の価格差は330円と1650円と言うように。
同じように友禅染や西陣の織物にしても、またその他の染織品にしても同じである。技術革新は素晴らしい物で難しい手業の技術を道具や機械が取って代われるようになった。
染物で言えば、手描き友禅から型友禅へ。更に型糸目の技術から捺染へ。そしてインクジェットによるコンピューター制御で安価に少量生産ができるようになった。織物も同じである。
しかし、作品としては明確な違いがあり、その差は価格に響いている。しかし、大量生産品、コンピューターに慣らされてきた目には、その違いが判別できない事も多い。消費者の中には、注染の手拭と捺染の手拭の区別、手描き友禅の振袖とインクジェットの振袖の違いが分からない、と言うよりも「気にしない」人も多いように見受けられる。
注染の手拭よりも安価な捺染の手拭を選ぶことは一向に構わない。手描きの振袖は高くて手が届かないからインクジェットの振袖を購入する事も一向に構わない。振袖にそれ程お金を掛けたくない人にとっては安価なインクジェットの登場は福音である。技術革新が着物を身近なものにしてくれたと喜ぶべきである。
それは、着物を着る人、手拭を使う人、即ち消費者にとって福音であるが、同時に呉服業界にとっても福音だったはずである。安価な着物を提供できれば、着物を買う層が広がり着物を着る人が増えるはずだからである。
しかし、巷を見ているとそうではなくむしろ業界は悪い方向に向かっている様に思える。
先に書いたように、私の店で注染の手拭は1650円から2420円である。そして捺染の手拭は330円である。注染の手拭の価格は染屋が上代設定しているのでそのままである。全国どこでも同じ価格だろうと思う。
手拭の価格が330円と1650円であれば、消費者はその違を直ぐに悟るロジックは既に説明した。しかし、同じ捺染の価格が高値で売られると、そのロジックは消え去り「同じ物が安く売られている」と言う幻想に取って代わられる。
振袖はじめ呉服の染織品も同じことが言える。
着物や帯、その他染織品には原価がある。高度な技術を要する染織品は自ずから原価が高くなり、新しい技術で大量に生産された商品は原価が安くなる。上代価格、販売価格は、それに伴って決まるはずであるが、我業界ではそうはなっていない例をよく目にする。
手描きの振袖とインクジェットの振袖を見比べて、瞬時に見分けられる消費者はどれだけいるだろうか。少し目が慣れれば、あるいは少々知識を与えれば容易に見分けられるのだが、初めて着物を見る人には難しい。
商品の違いの判断は価格に頼るように成り、「高価な振袖が良い振袖」と錯覚する人はいないだろうか。裏を返せば、「安い振袖の価格を高くすれば消費者はより高価な振袖と見てくれる。」と言う事になりかねない。
実際に私は、型糸目の付下げを数百万円で売られているのを目にしたことがある。型糸目の付下げと言えば、私の店では20~30万円台である。「作家物」と言う触れ込みであったが、型糸目で染められる付下げが「作家物」と言う名を冠するのはまるでおかしい。
消費者は、商品に付けられた高額な価格と「作家物」と言う触れ込みに惑わされてその付下げが数百万円の価値があると錯覚に陥ってしまう。
消費者が安価に生産された商品を高額な値段で買ってしまうのは、そのほとんどが我々業界に責任がある。しかし、消費者には是非見る目を持って適正な価格で商品を購入し、呉服業界を浄化していただきたいと思う。