全日本きもの研究会 ゆうきくんの言いたい放題
Ⅶ-69 棚卸(その6)
これらの付属品は、着物を仕立てる際の必需品なのだが、最近入手できるかどうか心配になるものもある。
黒八は、ここ10年位仕入れたことがない。黒八は、ロットのロールで仕入れ、切り売りするので、需要が少ないこともあり、一度仕入れたら今は10年以上仕入れる必要はない。次に仕入れる時にメーカーで果たして生産しているものかどうか心配になるのである。
付属品の一つに「背伏せ(セブセ)」がある。単衣を仕立てる際に背縫い脇縫いを包むテープ状の布である。私が山形に戻ってから35年間ほとんど仕入れていない。
昔、セブセの在庫は相当数あった。セブセは八掛と同じで、仕立てる生地の色に合わせて選ぶ。従ってセブセの在庫の数は多色に亘っていた。
単衣の着物の場合は裏を見なければセブセは見えない。とは言え、セブセはできるだけ生地の色にあった(同化した)物を選んだ。しかし、薄物の場合はセブセが透けて見える。背縫いや脇縫いの処に一本の線が透けて見える。薄物の場合は、色を同化させるだけではなく、透けてもできるだけ目立たないようなものを選ぶ。即ち色に加えて明度が適切なものを、である。
そんな訳で昔は色相、明度を考えて引き出しいっぱいに在庫があった。しかし、今は小箱に入る程度である。在庫が少なくなった原因は、きものの需要が減ったことが一番である。それとともに最近は、表生地を細く裁ってセブセの代わりにするなどセブセを使わなくなったこともある。しかし、今でもセブセを使うことがあり、在庫が少なく、また色数も少なくなってきた。
さて、これからセブセを仕入れようとしたら商品はあるのだろうか、と言うような疑問が湧いてくる。生産者の立場に立てば、安価で大量に生産しなければ採算が合わないような商品を作り続けているだろうか。
別珍衿も同じようである。仕立てに必要としている人にとってはなくてはならないものである。しかし、私の店でも売れるのは年間一枚くらいだろうか。果たしてメーカーがいつまで作ってくれるのか心配になる。
付属品の棚卸は、そんな思いを伴って一枚一枚長さを測りながら数えている。
今年も棚卸が終わった。コロナの影響で売上が不振である。それを補うために在庫を減らして資金繰りを改善しようと思っている。しかし、在庫はそう簡単には減らない物である。呉服屋としての最低限のアイテムを揃え、それぞれの在庫商品がお客様の要望に満足いただける為には減らせない物が多い。
最近、来店されるお客様の中に、探している商品が見つかると、
「えっ、あるんですか。そちらこちら探し回ったんですよ。」
そう言う声を聴くことが多くなった。その商品は、喪用の黒の草履であったり一つ身の祝着であったり、呉服屋として当然揃えておかなければならない物が見つからないと言う。呉服の需要、売上が減少する中で在庫を充実させるのは難しい。しかし、業界としてどこにも商品が無くなれば呉服離れは更に加速するのではないだろうか。