明治00年創業 呉服と小物の店 特選呉服 結城屋

全日本きもの研究会 ゆうきくんの言いたい放題

Ⅶ-78 呉服屋の居場所(その2)

ゆうきくんの言いたい放題

 五歳児の祝着を納めた時の事である。既成の祝着を身長に合わせて身揚げをし、着付けし易いように付け紐を付けて納めた。

 後日、お客様がいらして、付け紐を直して欲しいと言う。理由は、着付師さんから紐の位置をもつと下にしてきてくれと言われたそうである。

 祝着の紐を付ける位置は決まっている。男児の祝着は、女性の着物の身八の様に袖付の下が開いている。そこに紐を通すのだが、水平に紐を通すために紐を付ける位置はその袖付の下と同じ高さになる。紐の位置が胸のあたりになる為に、子供に袴を履かせる場合は、紐が出ない様に大人よりもずっと上に閉めるのが普通である。付紐を付けなければ袴はもっと下に履かせることができる。

 しかし、そのお客様は着付師に、
「紐が出てしまうので、紐をもつと下に付けて来てください。」
と言われて来た。袴を下に(大人並に)着付けようとしたのだろう。

 付け紐をもつと下に付ける事は可能である。しかし、そうした時、紐を身八に通せば斜めに通すことになり、紐を締めれば衿が浮いてしまう。

 そのお客様には、付け紐の位置の必然性を説明し、その上で
「着付師がそれでも綺麗に着付けできるのでしたら付け紐の位置を付け替えます。」
と申し上げた。お客様は私の説明に納得し相談した結果、付け紐をはずして腰紐で対応する事にした。

 袴については以前こんなこともあった。結婚式の為に新郎の袴を納めた。もちろん採寸した上の事である。しかし、前撮りの為に写真館で着付けたところ、袴が短いと言われたという。

 袴の丈というのは、実は微妙である。履きなれた人であれば自分の寸法が分かっている。しかし、初めて袴を、いや着物を初めて着る人の袴丈は採寸では推し量れない事がある。

 男性が袴を履く時には角帯を締める。この角帯の位置は、身長が同じでも人によって異なる。特にお腹の出ている人とやせ型の人では締める位置が違って来る。もちろんその人の好みによっても違いがある。お腹の出ている人は下腹部に締める。痩せている人はそれよりも上に締める事が多い。

 そして、袴の紐は角帯の上に締める。従って帯を締める位置によって袴の丈が違って来る。更に、袴の紐を締める場合、角帯のどの位置に締めるかによっても袴丈が変っている。すなわち、角帯をわずかに出す程度に締める人と、帯の真ん中あたりに締めの人では1寸位の違いが出る。

 採寸する場合は、実際に着物を着てもらって角帯を締めた上で、本人の了承も得ながら袴丈を決定するのだが、それとて主観が入らざるを得ない。また、裾を何処まで下げるのかによっても袴丈は違って来る。丈の長い方が、すなわち余り足袋が見えない方がしっくりくるけれども、実際に袴で歩く事を考えると少々短めに着付けた方が良い。袴を履きなれない人は階段を上る際の裾を踏んでしまうからである。

 そういう訳で、袴を着付ける人の主観によって適正な袴丈は2~3寸程度の違いが出て来る。

 着付けをした人は、自分の着付け方で袴が短いと判断したのだろう。しかし、着付け方によって袴が少々長かろうと短かろうと支障なく着せる事ができるのである。実際、私が着つけた時は何の支障もなかった。

つづく

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