明治00年創業 呉服と小物の店 特選呉服 結城屋

全日本きもの研究会 ゆうきくんの言いたい放題

Ⅶ-64 「粋(いき)」について(その2)

ゆうきくんの言いたい放題

 数年前に山形の料亭に幇間(ほうかん)が来ると言うので行って見た。幇間とは男芸者の事である。芸者とは何か、その役割は何かについては前項で述べた通りで、同じことをこなす男の人を幇間と言う。即ち、芸や話術で人を楽しませ、宴の場を盛り上げる役割である。

 現在全国に幇間は十人といないらしい。全国的に芸者はまだ何百人もいるだろうけれども、幇間は絶滅危惧種かもしれない。その存在さえ知らない人が多いだろう。私もお目に掛かってみたいので行って見た。

 踊りは芸者と同じように踊るが、やはり男ならではの芸がある。客を飽きさせずに酒を注いで回り話術で楽しませる。芸者の男性版である。

 その幇間に次のような話を聞いた。
「あっしら幇間は、旦那が言う事は全てやらなくちゃならないんですよ。」
 幇間には贔屓筋がいて、度々座敷に呼んでくれる旦那がいる。
「旦那に踊れと言われれば踊る。酒を飲めと言われれば一升酒でも飲む。裸になれと言われれば裸になる。「できません」と言う言葉はないんですよ。」
 それを聞くと、幇間とは大変な職業だと思う。そして、
「いや、ある時旦那の座敷に呼ばれて、「踊れ」と言うんで踊ったのですが、旦那から「お前の踊りは全然面白くねぇな」と言われたんですよ。」
 その席は旦那が仲間を連れた宴席だったらしい。そして、
「お前、ちょっと片方の眉毛を剃ってこい。」
 そう言われて旦那の言う通り片眉を剃って踊ると、一同大笑い。宴席は盛り上がった。滑稽な顔で何をやってもおかしく、客が喜ぶ。

 さて、宴席が終わると旦那に呼び出され、
「お前、そんな顔して座敷に出られんだろう。しょうがねえなあ。眉毛が生えるまで俺が面倒を見てやる。」
そう言って数か月分の生活費をくれた。

 また、もう一つ別の話を聞いた。

 別の旦那に呼ばれて料理屋に行くと旦那は数人で酒を飲んでいた。すると旦那は、
「今日は天気が良くて気持ちがいいので外に出よう。」
 そう言って幇間を連れて仲間と外に出た。そして、川沿いを歩いていると旦那が、
「ここらで誰か川にはまると面白れぇなあ。」
そう言って、
「おい、お前川に飛び込め。」
幇間は逆らわず、
「へい。」
と言って川にザンブと飛び込んだ。びしょびしょになって川から上がって来ると皆大笑い。そして、旦那は、
「そんな恰好で一緒に歩くのが恥ずかしいな。お前料亭に戻れ。」

 そう言われて料亭に戻ると、既に風呂が沸かしてあり、女将は直ぐに幇間を風呂に通して、風呂から上がると新しい浴衣が用意してあった。幇間はそれを着て、直ぐに旦那を追いかけたと言う。

                                      つづく

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