全日本きもの研究会 ゆうきくんの言いたい放題
Ⅶ-74 和裁士(その3)
和裁士はその数が急速に減っている。正確な数字を掴んでいる訳ではないので本当のところは分からないが、間違いなく減っている。
その証拠として昔2兆円有った呉服市場が2千万円まで減少している。単純に考えて和裁士の数が十分の一になったとしてもおかしくはない。また、最近(ずっと前からだけれども)海外仕立が増えてきている。現在仕立てられている着物の相当数が海外仕立である。私の店にも海外仕立の業者から誘いを受ける事もあるが、手が足りなくても断っている。海外仕立は相当にシェアを広げている。
一度新規のお客様にコートを仕立てて一ケ月で納めたところ、とても驚かれた事があった。私としては、少々手間取って遅れてしまったと思ったのだが、そのお客様は、三ヵ月はかかると思っていたらしい。聞けば海外で仕立てている呉服屋の納期が頭にあったらしかった。
海外での仕立ては中国に始まり、人件費の高騰によりベトナムへ、そして最近はもっと奥地に移っているらしい。技術も向上しているとも聞くけれども、私は海外に仕立を出す気にはなれない。
私の店では個人の和裁士を専属でお願いしている。仕立物がお客様に納め、万が一不手際があったり、直しの要望があれば、それを仕立てた和裁士に戻して直しを頼む。着物の仕立ては和裁士によって仕立て方が異なる。自分が仕立てた着物であれば直しもし易いし、責任をもって直してくれる。
仕立をする際は、お客様の要望を和裁士に十分に伝える必要がある。柄の合わせ方や、抱き幅の微妙な具合など。和裁士の顔が見えずに仕立てを発注するのに嫌悪感を覚える。
日本のきものを海外で仕立てると聞くと驚かれる方もいらっしゃるかと思う。日本では、きものの仕立てを一通りできるようになるには数年かかる。そして、呉服屋の商品として仕立てられるようになるまでは10年もかかる。海外ではどのようにして和裁士を育てているのか疑問に思うだろう。聞くところによれば、海外でのきものの仕立ては実に巧妙に行われているらしい。
仕立の工程を数十工程に分けて、それを分業で行っているらしい。背縫いをする人は背縫いだけ。袖を作る人は袖を作るだけ。袖を見頃に縫い合わせる人はその工程だけ、と言う風に。
中 国やアジアの人達は結構手先が器用なので、専門とする工程さえ覚えれば結構巧くこなす。ただし、その職工さん達が、きものの全体像、着物を着た姿を分かっているのかは分からない。それでも海外仕立がこれだけ普及しているところを見ると仕上がりはまずまずなのだろ。着物を知らずに着物を仕立てているとしたら、私は一抹の不安を覚えるのだがどうだろうか。
そして、今後将来に亘って安定的に仕立てができるかどうかも心配でもある。
つづく