明治00年創業 呉服と小物の店 特選呉服 結城屋

全日本きもの研究会 ゆうきくんの言いたい放題

Ⅶ-74 和裁士(その2)

ゆうきくんの言いたい放題

 着物の仕立ては、非常に緻密で正確さを求められる。着物を解いてみれば分かるけれども、「よくまあこんなに細かく、正確に」と思わされる。そしてそれを全て手で縫っている。仕立て替えの為に持ち込まれた着物を解いていると、仕立の良し悪しが分かる。簡単に解けるものと、返し縫いをしている解き難い物。ぐしが細かくきれいに揃っている物、そうでないものなど。いずれにしても和裁士の技が感じられる。

 そう言う意味で、私の店の和裁士は仕立ての技術が非常に高い。しかし、和裁士に求められるのはそればかりではない。和裁士には、仕立をするだけではなく、文字通り「着物を創る」技術が求められる。

 着物をどのように仕立てるかは和裁士の判断に任せられる。ただ寸法通りに仕立てるのではなく、柄をどう合わせるかは最終的に和裁士の判断である。

 例えば、訪問着など柄合わせが決まっている絵羽物の場合でも、仕立寸法通りに仕立てた場合、衽と前身、前身と後身の柄合わせがずれる時がある。その時は、前身と後身の幅を1分程度ずらして合わせられることもある。そう言う場合は、必ず私に相談してくるけれども、それだけ柄合わせに気を遣って仕立てをしている。

 小紋の場合、柄の寄った小紋や偏った縞柄の小紋は、仕立の具合によって仕立て上がりの印象が随分と変わって来る。下手に仕立てれば、柄はあるところに集中し、柄の空白部分が生まれる場合がある。柄を衿に出すか衽に出すかの判断も迫られる。

 また和裁士は、着物のメンテナンスの知識も必要である。

 永い間着た着物は、ほつれや破れ、擦れも出て来る。そうした着物をどのように再生するかの知識も仕立士は持っている。特に普段着の紬の場合はその知識と技術が生かされる。

 紬は前身頃が擦れて来る。紬は絣をはじめとして裏表がない。厳密にはあるけれども裏返ししても使えると言う事である。前身頃が擦れた紬は、洗い張りをして身頃を裏返して仕立て替えする。そうすると擦れた身頃は下前となり、それまで下前だった身頃が上前となる。

 同じように、擦れたり破れたり、また汚れた場所を仕立て替えによって目立たない位置に持ってくる。そう言った工夫を和裁士は考えながら仕立てをしている。

 掛け衿が汚れたり擦り切れた時には、掛け衿を外して洗い張りをして汚れたところは見えない様にずらして内側に入れる。または裏返しに付け替える。もっと汚れがひどく裏も使えない場合は、襟を欠いて掛け衿と衿の一部を取り換える。

 身巾を狭くする時には、単衣であれば脇縫いを解いて前身頃後身頃を同じ幅だけ縫い込んで必要な身巾にする。ただしこれは袷ではできないし、前幅後幅が必ずしも指定の寸法にはならないが、安価に応急的にするには良い方法である。

 そのように、和裁士の技は、一枚の着物を長く、場合によっては何代にも着て来た日本の着物のメンテナンス技である。しかし、そのような技術は将来に受け継がれるのか、受け継いでくれる後継者がいるのか心配である。

                                        つづく

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