全日本きもの研究会 ゆうきくんの言いたい放題
Ⅶ-83 得する街のゼミナール「きものの見分け方」(その13)
まず最初に染物の話をします。染物には様々な種類があり、古くから着物(衣装)の柄として染められてきました。古くは、「天平の三纈」と呼ばれる染色法があります。
三纈とは、蝋纈、纐纈、夾纈と呼ばれる染色法です。「蝋纈」はローケツ染、「纐纈」は絞り染め、「夾纈」は板締め染色法とも呼ばれます。しかし、これらはカンバスに絵を描くような思い通りの繊細な絵を描くことはできません。そこで発明されたのが「友禅染」です。
「友禅染」江戸時代に宮崎友禅斎によって考案されたと言われています。模様の淵に糊を置いて防染し、染料注すことによって繊細ではっきりとした柄が描けるようになりました。
ローケツ染めや絞り染めと違って具体的な柄を描ける友禅染は、染物の主流となりました。ただし、この「友禅」と言う言葉は業界で広い意味でも狭い意味でも使われます。狭い意味では宮崎友禅の考案した手法で染められた染物で「手描き友禅」とも呼ばれています。また型で染める「型友禅」も考案され、普通どちらも友禅染と呼ばれています。
もともとの友禅染は、柄の淵を糊で囲んで防染し、その内側に染料を挿すものです。糊は最後に水で流しますが、糊の後は白い線となって柄の淵に残ります。これを糸目と言って手描き友禅の証でもあります。
型友禅は柄の型を作ってそれで染料を混ぜた糊を刷り込み、柄を描いて行きます。手描きの様に糸目はできないのですが、昔の型友禅は型を使って糸目を(があるように)作っていました。最初に型で白く抜いて、次に同じ形の一回り小さい方で色を指して行きます。丁度金環日食の様に淵に白い糸目(のような線)を創る事ができます。
二枚の型の中心がほんの少しでもずれると糸目の太さは一様ではなくなります。金環日食では時間と共に片側が太く、反対側が細くなるようにです。型染と言えども、職人の熟練技で染められていました。
しかし、そのような型染は、今はほとんど見かけません。型友禅も技術革新によって様々な染め方が考案されました。その見分け方は後にして、最初に手描き友禅の見分け方についてお話しします。
手描き友禅は先に申し上げました通り、柄の淵に「糸目」と呼ばれる糊の後が残ります。通常白いのですが、色を入れた「色糸目」もあります。また、糸目に金を挿す場合もあります。しかし、糸目があれば手描き友禅なのかと言いますとそうではありません。それを見分けなければなれません。
手描き友禅は、白生地に青花の汁で絵を描きます。青花の汁を使うのは、後に跡が残らない様に完全に落とすことができるからです。そしてその下描きに沿って糊を置いて行きます。糊を置く時はマヨネーズを絞り出す様にして生地に糊を挿して行きます。非常に細い口金の付いた渋紙の袋に糊を入れて絞り出しながら糸目を引いて行くのですが、これがとても難しい作業です。
絞り出す糊の量を一定にしながら糸目を引く速さも一定にしなければなりません。上手な職人は細い糸目を一様の太さで引いて行きます。
私も体験したことがありますが、糸目を真っ直ぐに引くのも難しく、引いた糸目は細かったり太かったり、とても見られたものではありませんでした。また、糊がしっかりと縮緬生地に浸み込ませなければなりません。下手に糸目を引いたのでは、出来上がった友禅は糸目がヒョゴヒョゴ、そして染料が滲み出てしまう所が出来てしまいます。
糸目は細い方が綺麗な友禅に仕上がります。そして糸目の太さは一様でなければなりません。細い糸目を引くために友禅作家は口金を歯で咬んで細くして使っていると言う話も聞いたことがあります。
糸目を引くだけでもこれだけの手間が掛かります。その後、色挿し、糊伏せなど多くの行程で手描き友禅は完成しますが非常に多くの手間が掛かり高価になるのもうなずけます。
つづく