全日本きもの研究会 ゆうきくんの言いたい放題
Ⅶ-83 得する街のゼミナール「きものの見分け方」(その17)
次に型染の例として江戸小紋についてお話し致します。
江戸小紋についてはご存知の事と思いますが、元々裃の柄を着物の柄にしたもので、非常に細かい柄が特徴です。伊勢型と呼ばれる渋紙に柄を刻した型紙で染められます。細かく連続した型を彫るには熟練の技が必要です。伊勢型を彫る職人は伝統工芸士や人間国宝も多く輩出しております。
また、彫られた伊勢型を使って染める染師も熟練の職人です。わずか2~30cmの型を継いで12~13mの柄を付けて行きます。柄の継目が分からない様に、色の濃度やムラが出ない様に染めるにはとても高度な技術が必要です。
江戸小紋の彫師や染師も友禅や他の染師よりも根気が必要だと思います。
江戸小紋の柄では「鮫」が鮫小紋として最も知られていると思います。加えて「行儀」「角通し」が江戸小紋三役と呼ばれる柄です。他にも「万筋」や「胡麻柄」など多数ありますがいずれも細かい柄が反物一面に染められています。
さて、その江戸小紋ですが伊勢型の型で染められてきました。手描きの江戸小紋と言うのは存在しません。もしも手描きで江戸小紋を染めようとすれば一反染めるのに数年かかるのではないでしょうか。それは冗談ですが、江戸小紋は伊勢型で染めた型染であると言う事です。型染の江戸小紋が本物の江戸小紋です。もちろん手で彫られた伊勢型を使い手で染められた物です。
しかし、最近というよりも随分前からですが、型染ではない江戸小紋が出回るようになりました。現在、数から言えば型染はほんの少しでしょう。
型染ではない江戸小紋と言うのは「捺染」と言う技術で染められた物です。「捺染」はプリント、印刷の技術を応用したもので、機械で染める為に型染よりも遥かに安くできます。機械で染める、と言うと余り良い印象を持たれないかもしれませんが、「捺染」で染められた江戸小紋は粗悪品ではありません。
型糸目の時にお話しした事と同じなのですが、捺染の技術は染の着物をより安く制作する為に工夫されたものです。雑な粗悪品を作る為ではなく、より型染に近い染物を創り、安価に江戸小紋を提供する為の技術です。
しかしながら、これも型糸目と同じなのですが、捺染の江戸小紋が型染と同じような価格が付けられていたり、なかには公然と「型染です」と言って売られているケースがあります。型糸目の友禅を手描きと称して販売するのと同じで、いわば詐欺的行為ですが、これを見分ける目を持たなければなりません。
江戸小紋の型物と捺染を見分けるのは実に簡単なのですが、このような事を教えてくれる呉服屋は少ないと思います。また見分けられない呉服屋が居るのも事実の様です。その事はまた後でお話し致します。
簡単な見分け方をお話しする前に、まず型物と捺染の江戸小紋がどのように違うのかをお話し致します。
つづく