全日本きもの研究会 ゆうきくんの言いたい放題
Ⅶ-83 得する街のゼミナール「きものの見分け方」(その5)
これらの証印は、それぞれの産地の組合が制定しているもので、十分に信用のおけるものと思います。
この証印によって、どこで作られた白生地なのかが分かります。白生地には、後でお話しするように高級物、汎用物と色々ありますが、昔はこの証印は産地を明確に示すものとして十分な信用を得ていました。
当時は、海外の繭や生糸を使う事はありませんでしたので、先に申し上げた四つの行程は全て日本で行われているのは常識でした。繭は何処の国の産なのか、生糸は日本製なのか、と言う詮索は必要なかったでしょう。白生地を織った組合が国内で生産した生糸で責任を持って生産していると言う事に疑問を差しはさむ余地もなかったでしょう。
しかし、近年(と言っても40年以上も前からですが)海外の絹が輸入されるようになり、海外で製織、精錬も行われるようになりました。
そのような製品が出回り始めた当時、白生地には小さく「中国製織」とか「香港精錬」と言うような印が押してありました。「中国」「韓国」「香港」は、見た目にそう違和感はなかったのですが、「マレーシア」とか「シンガポール」と言う表示は、何か違和感があったのを覚えています。当時は海外からの輸入が始まったばかりでしたので、染屋や問屋では抵抗があったらしく、中には国名印の上に他のシールが貼ってあるものもありました。
海外からの絹が出回るようになると産地表示の証印の信頼がぐらついてきたのでしょうか、それらは公的な証印ではないと言う背景があったのでしょうか、平成14年にあらたに「日本の絹マーク」が制定されます。
これは、一般社団法人大日本蚕糸会の登録商標で、いわば公的な証印です。このマークの意味するところは、
➀ 日本で製織された白生地及び日本で染織された和装品(きもの、帯、和装小物、裏絹)
➁ 日本で製織、製編、染色・加工、縫製された洋装品
➂ 日本で染織、染色・加工、縫製された寝具寝装品
となっています。
呉服関係は➀ですが、もっと分かり易く言えば、「日本で織られた(製織)白生地、日本で染められたきもの、日本で織られた織物(紬や織帯)と言う事です。
このマークは、シールとスタンプがあります。紬や帯にはシールが貼ってありますが、白生地の場合、染色加工した際にシールでは剥がれてしまいますので赤いスタンプが押してあります。
白生地に限って言えば、「日本で織られた白生地」と言う事です。「織られたのが日本である」証ですので、繭の産地や製糸がどこで行われたのかについては保証されていません。繭や生糸が海外製であっても、残念ながら日本で織った白生地であれば「日本の絹マーク」が添付されることになります。
「残念ながら」と言いましたのは、決して「日本の絹マークがいい加減だ」と言う意味ではありません。もしも、「日本の絹マーク」添付の条件が、「養蚕から精錬までの全ての行程を日本で行った絹製品」としたならば、その対象となる製品は殆ど無いか皆無となるでしょう。
日本でもまだ養蚕は行われていますが極わずかです。日本産の繭から採った生糸で織った「純日本産」の白生地がありましたが、その白生地の端には、
養蚕 日本
製糸 日本
製織 日本
精練 日本
と織り込んでありました。私が最後に見たのは、もう3年位前でしたが、価格も白生地で十数万円でした。純日本産の白生地が、今もあるのかどうか分かりません。あったとしても極希少品でしょう。
「日本の絹マーク」をはじめ、白生地の証印は日本の絹事情を良く知った上で評価する必要があります。
つづく