全日本きもの研究会 ゆうきくんの言いたい放題
Ⅶ-83 得する街のゼミナール「きものの見分け方」(その26)
帯地は織物ですので、経糸と緯糸で柄を織り出しています。経糸は基本的に無地で、その経糸の間に何色もの色糸を織り込んで柄を創って行きます。横糸は杼と呼ばれる道具に巻かれて、経糸の間を走らせて織って行きます。
無地で織る場合は、一本おきに糸を上げ下げ、即ち左から奇数番目の糸と偶数番目の糸を上げ下げして、その間に横糸を通します。柄物の場合は特定の経糸を揚げて杼を通し、横糸の一部が表に出るように織ります。多色の糸を使う事によって織物に美しい柄を織る事ができます。
柄を織る際には、どの経糸を揚げるのか、どの色糸の杼を飛ばすのかは綿密に計算しなければなりません。その昔柄を織る時には、織機には機を織る人と、経糸を操作する人が関わっていたそうです。経糸を操作する人は、織機の上に登って経糸を操っていたと言うのですが、大変面倒で余程頭が良くなければできないと思うのですが、苦労しながら帯地を織っていたようです。
その織機に革命が起こったのは明治に入ってフランスからジャカード機が導入された事です。ジャカード機は、予め柄をプログラムして経糸を自動的に制御するものです。ジャカード機の導入によって織機に登って経糸を操作する人はいらなくなり、更なる自動化で機械織が可能になりました。
さて、「プログラム」と言いましたが、この「プログラム」と言うのは、現代のコンピューターのプログラムではなく物理的なプログラムです。
帯を制作する場合は、(40年前の話です)図案を描き、それをグラフ要旨に落とします。グラフの縦線は経糸、横線は緯糸になります。色を付けたグラフ用紙案が出来上がります。緯糸一本につき一枚の紋紙を作ります。紋紙は写真のような物です。
紋紙には穴が開いています。この穴一つが経糸一本に相当します。経糸に連動した丸い割り箸のような棒がこの穴を通ります。穴を通った経糸だけが引き上げられる仕組みになっています。この紋紙で経糸を制御する仕組みになっています。
この紋紙は一枚一枚手造りで作られていました。紋紙職人がピアノのような機械の前に座り、図案が描かれたグラフ用紙を見ながらボタンを押してペダルを踏むと紋紙に穴が開くようになっています。こうして緯糸一本につき一枚の紋紙が作られます。
緯糸一本につき一枚の紋紙を作らなければなりません。帯地一本を織るのには膨大な数の紋紙を作らなければなりません。しかし、帯地の多くは、柄が繰り返しの柄になっています。柄の分だけ紋紙を作れば、それを繰り返し使って織ってゆきます。
袋帯は長さが約1丈8寸位あります。仮に6寸の柄を繰り返し織ると、18回繰り返して織れば良い訳です。1尺の柄であれば約11回です。6寸の柄と1尺の柄では1尺の柄の方が紋紙を多く作らなければなりません。この柄の長さを「紋丈」と言います。この「紋丈」が長ければ長いほど多くの紋紙を作らなければなりません。手間が掛かりますので「紋丈」の長い柄の帯は高価になります。
つづく