明治00年創業 呉服と小物の店 特選呉服 結城屋

全日本きもの研究会 きものQ&A

23.丹前について

きものQ&A

質問者

 この時期になると幼い頃着ていた綿入れ丹前を思い出します。冬の寒い時期になると夜具として活躍していたのが丹前です。

 肩をすっぽり覆ってくれ夜中にお布団から出る時は丹前をそのまま着てガウン代わりにしていました。

  私の小さな頃は一人一枚綿入れ丹前、その他にもお客様用が何枚か家に有りました。いつの頃か覚えてませんが家庭で洗濯出来る毛布地のマイヤー丹前なる物も出てきました。

 今でも寝具店に行くと僅かですが綿入れ丹前が有るようです。

 先日母に電話をして丹前はどうしたと尋ねた所、父が今でも丹前を放す事が出来ず夏以外使っていると言っていました。予備に新しく仕立てて貰ったのも2枚程用意してあると言っていました。そお言えば女学校時代丹前下を縫わされた記憶があります。

 ネットでは男物丹前は見たことが有りますが女物は有りませんし、私の見たのは対丈で男の人の綿入れ家庭着(くつろぎ着)の様に載っていましたし、帯もしていました。

 そこでなのですが、丹前とはそもそも何ですか?

 
 

ゆうきくん

 添付した二枚の写真をご覧下さい。それぞれ皆さんは何と呼んでいますか。

  初めのものは?「上っ張り」「ひっぱり」「キッチンコート」等等。二番目は?「綿入れ」「綿入れ半天」「綿入れ襦袢」「どんぶく」「どてら」等等。いずれも正解でしょうし、もっと他の正解もあるでしょう。

 きもの用語が曖昧な ことはすでに何度も申し上げておりますが、こと汎用品についてはその傾向が強いように思えます。

 大島紬はどこへ行っても大島紬。加賀友禅はどこでも同じ物をさして加賀友禅と呼ばれますが、「丹前」「どてら」「上っ張り」などは地方により人により呼び名が異なります。

 添付2は山形では「どんぶく」(胴服がなまったものと思われます。)と一般に呼ばれていますが、店に来る客は「綿入れ」「綿入れ半天」「綿入れ襦袢」「どてら」などと勝手な?名称で買いにきます。
 
 話題の「どてら」「丹前」「上っ張り」「かい巻き」についても人によってイメージしているものが違うでしょうし、私のイメージもインターナショナルに通用するわけではないでしょうから物の本に頼ってお答えします。(『』のついた部分が物の本による引用です。)
 
丹前: 旅館で寝巻きの上に着る長着で細い丹前帯で着るイメージです。物の本によれば、『くつろぎ着として家庭や旅館で着る。江戸時代初期、神田の堀丹後守の屋敷の前の風呂屋に通う伊達男が着た異様な衣服から出た。これが上方に伝わって丹前と呼ばれたが、江戸では褞袍(どてら)と呼んだ。今日のどてらとはやや異なる。』

「丹前」「どてら」の言葉の曖昧さはすでに江戸時代にその芽が育って いたようです。

  一方「どてら」というのは、『防寒用部屋着で元来は男物だが、子供物もある。厚綿の綿入れで表地には木綿、銘仙、縮緬、紬、メリンスなどで仕立てて黒繻子、別珍などの掛け衿をする。職人や町人には晴れ着とするものもあった。現在は丹前の厚く大振りなのを言う。』

 丹前、どてらの起源はさておいて、現在では丹前は旅館で寝巻きの上に着るもの、どてらは綿の入った丹前というように物の本には書いてあるようです。最近の旅館では丹前はウールや化繊などの単衣も多く必ずしも袷とは限らないように思えます。山形のしにせ旅館の主人に問い合わせたところ、「丹前とは旅館で浴衣の上に着るもので、綿の入ったもの」という回答でした。

「必ず綿入れなのですか。」と聞き返しましたが、「そうです」とのことでした。やはり正式には丹前は綿入れの長着のようですが、時代と共に言葉の意味は変るようです。

 一方「どてら」は『厚綿の丹前』と物の本には書いてあります。  

 結論としてはそれぞれの名称の意味するところを時系列的に並べれば次のようになると思います。
 
「丹前」
1.江戸時代にできた伊達男の綿入長着。
2.家庭や旅館で着る綿入長着。
3.2と同形でウールや化繊で作った長着で旅館で出されるもの

「どてら」
1.江戸時代は丹前と同義 。
2.進化して町人の間で晴れ着として着られるようになった綿入れ。
3.現在では丹前の厚く大振りなものを言う。
4.しかし、綿入れ一般をさして言う場合もある。
 
「上っ張り」については「ひっぱり」「キッチンコート」などと呼ばれていますがどれも正解だと思います。「キッチンコート」というのはいかにもメーカーが取ってつけた名前のようにも思えるのですが。

 きものの名称は地方により、その時々により異なり、名称の統一は文部省国語審議会にでもゆだねない限り無理でしょう。きものは実に日本的です。

質問者

 とても丁寧な解説をいただき、ありがとうございました。

 現在ではドテラと丹前は大体同じものだそうですね。どちらかといえば丹前は旅館で浴衣の上に着るもので、ドテラは家庭内で着るもの、だという気はしていましたが。

 ドテラは特にコタツにあたっている時、背中が温かくてなかなか良いものだと思うのですが、 最近売っているのを見かけませんね。

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参照:「きもの春秋 11. 浴衣(ゆかた)」

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